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[8]狂想ドデカフォニー(page24)

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狂想ドデカフォニー 《もくじ》
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突然、見張りをしていた収容者たちがあちこちで叫びだした。
どうやらイピの軍勢が収容者を取り囲もうとしているらしい。
数も先ほどとは比べものにならない数で、既に四方から押し寄せて逃げ場もない。

「・・・いくら逃げても無駄だぞ!!君たちは貴重なイピの兵器なんだ。」

向こうの方からネペとおぼしき人の叫び声が聞こえた。

「イピの民でもないのにイピの兵器にされてたまっかよ!!」
収容者の1人が戦々恐々としながら言葉を漏らした。

「大人しくこちらに来れば手荒な真似はしないが、抵抗するなら容赦はしないぞ。」

そう言うが早いか、四方からイピ兵が近づいてくる。

脱獄者たちが慌てふためく中、アルベが重要なものを発見した。

「・・ねえ!あそこにあるの、安定装置!」

それは南側の兵士たちが運んでいた。

あれが近くにあれば、兵士も死なずにすむだろうが、こちらも死ぬことはない。
奴らはまだ安定装置の力の働きがわかってないと見える。

だからこそヤンゴン兵は、敵兵に影響しないほどの小さな安定装置の欠片を兵士に持たせて
ヤンゴン兵のみが生き続けられるようにしたのだ。
そして安定装置本体は敵陣からだいぶ距離をおいたところに隠していた。

「でも安定装置・・こっからだとだいぶ距離あるなぁ・・」

ソッテが頭をぽりぽり掻きながら安定装置を眺めている。

「安定装置があるなら、その力を使って天使の魔法を何万倍にも引き出せます!」

事情を知らないりんごが喜色を浮かべて言うが、ダンテはりんごに安定装置が起動しなかったこと、
それゆえに治癒の羽で安定装置にアクセスを試みようとしに戻ったがイピに捕らえられてしまったことを説明した。


「安定装置が起動しない・・それはこの戦乱の闇の衝撃で、一時的に安定装置が封印状態になったということかも。」

ソッテは青い髪を左手でいじりながら推測した。

「この距離でも届けられます。私の歌魔法を使って治癒の羽の光を安定装置に送りましょう。」

りんごはそう言いつつ準備を始めた。

巨大な陣を描き、天使たちは指示に従い、各々の位置に立つ。

天使たちが準備している間にも、兵士たちは押し寄せて来ていた。
脱獄者たちはその辺の岩や木から武器や道具を作り、罠を仕掛けていた。

脱獄者のリーダー格の人物の指示で、岩場を要塞に見立てて、守りを固めていく。


そうは言っても、実際にはただの岩場、どんなに守りを固めても、突破されるのは時間の問題だった。



りんごの歌魔法を安定装置に向かって放つには巨大な陣と手間のかかる準備、そしてほかの天使たちの協力が必要だった。


ローザの補助魔法無き今、りんごの歌魔法をソッテとダンテとアルベでカバーするしかない。

「兵士たちがすぐそこまで来た!守りを固めろォォォッーーー!!!」
「2度も捕らえられたら命は無いぞ。何が何でも生きて帰る!!」
脱獄者たちが各々に叫び声をあげて、その辺にある岩を転がして前線にいる兵士を切り崩しにかかる。

ダンテや脱獄者たちがいるこの岩場は高度が高いため、唯一有利なのが、高さなのだ。

そしてさすが魔力の高い脱獄者たちだけあって、転がした岩に魔法をかけて岩の位置エネルギーを何倍にも増幅させている。


脱獄者たちの必死の猛攻に手を拱いている前線のイピ兵を見て、
痺れを切らしたネペが、沢山の精鋭部隊を連れてこちらにやってくるではないか!


「よし、こっちは終わったぞ。」
ダンテが叫んだ。
「こっちはもうちょっと・・・」
アルベが必死に何かを並べながら魔法をかけている。
「こっちも完了だ!」
ソッテも準備が終わり、指定の位置についた。

「精鋭部隊とその隊長が来たぞーーー!!みんな注意しろーー!!!!」

脱獄者の1人がそう言い終わらないうちに、イピと精鋭部隊によって脱獄者たちが転がした岩が粉々に砕け散った!

「ウソだろ!?あんなデカい岩が!?」
「簡単に壊されないよう強化魔法もかけてたわよ・・・!?」
脱獄者たちが狼狽を始めた。

「・・・いきます。」
その後ろで、赤髪の少女は小さく呟いた。

次の瞬間、少女は思いきり両手を広げ、天を仰いだ。
魔法が大きく展開する。

”mil−−−−−to〜〜〜〜♪”


少女の前奏に合わせて、ダンテとソッテとアルベが魔法を調和させていく。

”i−−−−aaaaa、chos!”


魔法陣が少女を中心に大きく穏やかにゆっくりと広がっていく。


”biu−−−−−i−−−−o−−−−−−♪”



「ぎゃあああっっっっっ!!!」
「くっそ、なんて奴だ。精鋭部隊ってあんなに強いのかよ!?」
「攻撃は止めだ!!全員で防御壁を作れ!!」
歌の後ろでは壮絶な死闘が繰り広げられていたが、りんごを含む天使たちは完全に歌の流れに身を委ねていた。

むしろこの集中が途切れると、歌魔法が中断されてしまう。
集中の途切れは歌魔法の失敗に直結しかねないのだ。

一度失敗すると、この膨大な魔法の力を再構築するのにとても時間がかかってしまう。
その間に天使たちはネペたちにやられてしまうだろう。

絶対に集中を途切れさせるわけにはいかない。



”ruru〜〜〜〜jios−−−−−chadeapp♪
(ーーーーすべての愛しきものたちよ、私に応えてくださいーーーーーー私に力を貸してください・・・。)”


天使たちはそれぞれに治癒の羽を持ち、それを心臓に当てて作動させていく・・。
治癒の羽の力を解放し、その力をりんごに送り、りんごが歌魔法で遠くの安定装置にぶつける。


もうこれは、最後の手だった。




「捕まえろ!!!全員残らずな!!」
ネペの指示で前線にいた脱獄者たちがこれ見よがしに痛めつけられた後、捕らえられていく・・。

それは、人に対する扱いでは無かった。
モノ以下だった。

脱獄者たちは夥しいイピ兵の魔法によって防御壁が破られても破られても、また、次の防御壁を構築していく。

外側の防御壁が破られると前線にいた脱獄者がイピ兵にいたぶられて捕らえられ、
その隙に脱獄者が新たな防御壁を構築する。

まるでイタチごっこだ。

またしても業を煮やしたネペが、前線に立ち脱獄者たちにこう言い放った。


「お前たちがどれだけ無駄なことをしているかわかっているのか?
兵の数を見ろ!お前たちがどれだけ抵抗しても、最後は捕らえられる。本当はわかっているんだろう?」

先頭に出てきたネペに、カートに乗った青年が問いかけた。

「ネペさんとは貴方ですか?貴方はぼくたちを捕らえて兵器の原料にして、最後はどうしたいんですか?
イピは既に大きな国土と魔法技術、大勢の民を有しているではありませんか。」

青年の問いに、ネペはにやりと顔を歪ませた。

「もっと国土を増やすのさ。この大陸全土を支配する。その次は世界全土だ、わかりきった愚問はやめろ。」

ネペは大剣を突き立て雄々しく叫んだ。

「いえ、ですから、全てを支配してどうしたいのかとお聞きしたのです。
今の資源や国土では足りないと?」

「・・・足りない?そんなことはどうでもいい。
お前は何もわかっていないんだな。
小国は大国の奴隷だ。人間もそうだ、すべてが大国の捧げ物なんだ。
種族でも言えることだ。数が少ない種族は好きなとき、好きなだけ数の多い種族からなぶり殺される。
小さいものは大きいものの奴隷なんだよ。
お前のことは覚えているぞ、特徴的なその体。強靱な魔力。
イピの民だったろう。
イピが隣国にいつ攻め滅ぼされるともしれない立場で怯え苦しみ
ご機嫌伺いに捧げ物をするのが本当に良いことだとでも?」

「全世界を支配するまでに、いったいどれだけの血を流させるつもりですか。
貴方は少数種族故の迫害を受けてきたはずなのに、今度は暴力を行使する側にまわるつもりなのですか?」

「なんだ、いけないか?私は少数種族故に迫害されたさ。
でも迫害したやつらのことを恨んではいない。
6歳の時目の前でなぶり殺された父も言っていた。
強くならなければ殺されるしかないんだ。とな。
私は慰安婦として少数種族の虐殺から生き延びた。

いいか、よく見てみろ。今私はどこにいる?
イピの精鋭部隊の頂点だ。
誰が頭を下げてきたか知ってるか?

かつて私が生き延びる為に夜の相手をしたあの大臣様だよ!!
これほど滑稽なことがあるか?

いまや大臣は私の言いなりだ。私が勝ったんだよ。そして私はこれからも勝ち続ける。
1度だって負けた奴に明日は無いからな。」
イピは皮肉めいた高笑いを木霊させていた。


「できました。」
脱獄者たちの背後でそれは密かに行われていた。
りんごの魔法は急速に収束を始めた。

「・・・これを、安定装置にぶつけます!!」

りんごは膨大な光をほかの天使たちから受け取り、
それを全身に媒介させる。

ーーーそして。


ズキュッッッッッッッッ・・・・


ものすごい空気を裂く破裂音とともにそれは安定装置へ向かった。

「・・・・なんだ!?」
その音に気づいたネペが、慌てて音のした方を見る。

安定装置はりんごの放った光の直撃を受けた。

ゆっくり・・・ゆっくりと、それは色を帯びてゆく・・・。

「あれ、見て!安定装置が輝きだして来た!!」

「起動したのか!?ついに・・・!?」

アルベとダンテが叫んだ。

四角錐を上下に重ねたようなその安定装置は、黒ずんだ色から徐々に金色へ輝き始め・・・・


「何をした!?お前ら一体何を!!?」
動揺を隠せないネペがいきり立って叫んでいる。

前線ではなおも脱獄者とイピ兵との攻防が続いていた。


シャン・・・・・。

綺麗な鈴の音のような音がして、安定装置はようやく金色に輝き始めた。

そして・・・。

ぶわっっっと辺りに大きく羽が広がる。

「きれい・・神様みたい!」
アルベが興奮している。

「あとは・・ローザ、ローザを助けないと!」
ソッテの指摘に我に返るダンテとアルベ。

「もう一踏ん張りです。安定装置にアクセスして同化します!!」
りんごの指揮のもと、ダンテたちは安定装置にアクセスを試みた。

距離が遠いが大丈夫だろうか・・・。

・・・・・4人の天使の波動が重なり合って、安定装置に向かう。

「おいーー!!もうダメだ!逃げろ!!!」
「俺・・・もう故郷には帰れねえんだな・・・」
「いっそここでみんなで自爆しよう!!」
「何言ってんだよ!!!」




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