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[8]狂想ドデカフォニー(page12)

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狂想ドデカフォニー 《もくじ》
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「・・・その顎髭、とれかかってるよ。」
アルベは若干可笑しそうに言った。

それはダンテが変装のためにつけた顎髭だ。
髪の色も黒く染めておいたのが、水に濡れたせいで少しとれかかっている。

りんごも肌の色を黒くしておいたのだが、城堀の水の中に入った時にきれいに元通りになってしまっていた。


「そういえば、塔で会った時誰だかわからなかったよ!」
ソッテがいう。
「そうそ〜、声でダンテたちかなって思ったけど。」
アルベが続けた。
「うふふ、一瞬笑っちゃいそうになったけど、あまりのダンテの真剣さにからかえる雰囲気でもなかったのよねー」
「一秒でも早く逃げなきゃいけなかったしね。」
ローザとソッテがそれぞれに言う。

ダンテはとっさに左手で顎髭を触った後、
すっと横を向いてしまった。

そういえば変装していたことなどすっかり忘れていた。
塔で再会したローザたちの表情が驚きと疑念に満ちていたのはそういうことか。


「お前たちも変装した方がいい。せめてこの国を出るまではな。
城に進入して脱走した以上当然ロンバヌのお尋ね者になっているだろうからな。」

ダンテの忠言を受け、アルベたちは互いに顔を見合わせた。


そしてしばらく考えた後、それぞれ顔に泥を塗ってみたり、髪型を変えてみたりしていた。


森はじきに夜を迎える。今夜は早めに休みを取り明日に備えることとなった。


この世界に来て間もない頃は、毎日泣き言を言いそうになったものだ。
食べ物がないうえ日常的に不衛生。
やっとの思いで食事が出来たと思ったら腹を壊す。
そして至る所に争いの爪痕があり、人々の目は不信感に満ちていた。

こんな世界相手でも何度も危機を乗り越えながらここまで来ると、多少は慣れて来るものだ。


だが一刻も早く、安定装置を回収せねば。

安定装置を悪用した何か致命的な事件が起こる前に・・。


ーー心地よい木漏れ日が瞼を刺激する。

鳥の鳴き声が遙か上空で木霊している。

ダンテたちは無事朝を迎えられたようだ。


朝の森は少しひんやり肌寒い。そして相変わらず湿っぽくて苔の芳しい匂いがする。



一行は目覚めてすぐ朝食を取るため森を移動し始める。

昨日夕方に集めておいた木の実や雑草は全部スープにして食べてしまっていたし、

城に進入する際に買い込んだ非常食も、森にたどり着いた時には殆ど尽きてしまっていた。

武器や鎧は兵士たちのものを借りて何とかなっているが、食料だけは本当に減りが早い。

6人分ともなれば尚更だ。

一行はコンパスを確認しつつイピの方向を目指した。



入り組んだ地形や獣道、長く生い茂った雑草に足を取られながらもなんとか歩みを進めた。

途中ヤンゴンの兵士を何度か見かけて肝を冷やしたが、敵兵のあの鎧の音のお陰で素早く身を隠すことが出来た。


ただどこかに潜伏されて奇襲をかけられると厄介だ。

一行はなるべく通りやすい道を避けて通った。



何日かかけて進んでいくと、深い谷のある崖に出た。
見た限り、左右を大きく分断しており、橋なども見当たらない。



「・・・・どうする?」
しばらく辺りを見渡した後、ダンテが低く呟く。

「ウーン、弓矢でも作る?」
アルベがてきとーに答えた。

「弓矢を飛ばしてどうすんだい?」
ソッテが尋ねる。

「ほらーなんかお城の時みたいにロープとかくっつけてー」
「ロープを伝って渡るの・・?」
アルベのてきとーそうな物言いにローザは少し不安そうだ。

「・・だがロープは一部が切れかかっているんだぞ。」

「それならここに来る途中ロープの代わりになりそうな細い木とかツルとかあったよ。」

ダンテとソッテが言う。


「・・・・ほかにもっと安全な手はないのか・・。」

散々危険な目に遭ってきた反動か、ダンテは乗り気でない。

ぐずぐずしているダンテを見て痺れを切らしたアルベがこう切り出した。
「あ〜みんなだってこんなとこで長居したくないでしょ〜?
ふかふかベッドもないし食べ物だって木の実や草ばっかり!夜は寒いし肩が凝るし・・獣の遠吠えが怖いし。兵士の鎧の音はもっとこわいし!ほかにも」


「わ・・わかった、わかった!」
取り留めなく続く愚痴をダンテが遮った。

「じゃ、あたし弓作るから誰かがロープ作って!ねっ!」
アルベはくるっと振り返ると上機嫌そうにそう言って弓の材料探しに行ってしまった。

「・・はぁ、なんだか奴の思惑にうまく乗せられたような・・」
ダンテは溜息混じりにアルベの背中を見つめた。

アルベの提案を受けて、ソッテもロープになりそうな材料を探しに行く。
りんごは心配してソッテについていった。


ローザはアルベについていこうか迷ったが、一言も喋らないヴァイオレットのことが気になって、その場に留まっていた。


ダンテはアルベが提案した以外のもっと安全な方法がないかと辺りを探っている。


一時間ほどしてアルベとソッテとりんごが戻ってきた。

アルベは弓矢を作り終えており、ソッテとりんごは2人で長いツルのようなものを抱えていた。
ツル?

「見てくださいこのツル、しなりがあって、大人が乗ってもびくともしません。」
りんごがツルを左右に動かしてその頑丈さを見せた。

「俺たちは綱渡り芸など出来ないんだぞ。上から下へ降りるならともかく、重力に逆らって横へ移動するなんて筋力が持つのか?」

「とりあえず1人でも向こうに渡れれば、何本かツルを交互に渡して、簡易ハシゴみたいなの作れるんじゃないカナー?」

ダンテの問いにアルベが答える。

「1人?その1人は誰が行くんだ?」
「それは筋力とバランス感覚に自信のあるヒト〜」

いかにも自分ではない、と言いたげな他人事なアルベ。
そしてアルベの目線がダンテを直撃している。
暗にダンテに行けと言っているようだ。

「・・・・・・・・。」
アルベの視線を無視していたダンテだったが、アルベが如何にダンテが最初に行くにふさわしいかを力説し始めた。
おまけに周りの天使たちにも同調させようとしている。

「・・・もういい!俺が行ってやる。最初からそういう魂胆だろ?その代わりアルベ、落ちそうになったらお前の飛行魔法で助けろよ。」

「えーーん、そんなの期待されても困るぅ〜」
オドケた素振りで驚くふりをするアルベ。

「ほらとっとと矢を放て!」

ダンテに急かされて、弓矢にロープ代わりのツルをくくりつける。


ツルはそれなりの長さと重さがあるので、谷に落ちないように勢いをつけて、向こう側の木に矢を固定しないといけない。


簡単には外れないよう、矢の先端もカギ爪風に工夫した。


「・・・・・・・。」
弓矢を携えて静止していたアルベだが、一向に矢を引こうとしない。*

「・・・・どうした?」
ダンテが遠くで尋ねる。


「これ力足りない。誰か手伝ってよ〜」
ツルの長さと重さに耐えられるよう、大きめの弓矢を作ったはいいが、
アルベの力が足りず、うまく弓を引くことが出来なかったらしい。

急いでソッテが駆けつけて、弓矢を引いてくれた。

ソッテとアルベだけでは重そうなので、ダンテも加勢した。

アルベが細かい指示を出す。
「もうちょい右、あ、ちょっと行き過ぎ。あと3ミリうえ。」

「3ミリ!?」
アルベの指示に右往左往しながらも、ダンテとソッテがそれに従う。

「息が合ってな〜い、矢がぶれるっしょ!」
アルベに指摘されて、一生懸命息を合わせようとするソッテとダンテ。


「・・・・よし今!放して!!」

ビュッッッッ!!


空気を切り裂く音が手前から向こうへ広がる。


一瞬のうちに、ツルが矢に引き寄せられ、もとの場所を離れた。

数ミリ秒経って、向こう側からドン、と重く突き刺さるような音が聞こえた。

・・・とりあえず成功したのだろうか?


皆一斉に向こう側の矢の行方を確認する。

「・・・ウン、・・・・ちゃんと巻き付いて・・刺さったっぽい?」

「アルベのコントロールすごいわね!」
ローザが賞賛する。

「さあ今からダンテの勇士が見られるよ〜」
アルベが茶化すが、ダンテは冷静だ。
「・・・いやだからな、1本でどうやって渡れというんだ?アルベ、お前行ってみるか?」
「丈夫そうだし大丈夫っしょ〜〜」
「そういう問題じゃない!」
「今のギャグだから〜」
「・・・はぁ?」

アルベはもう一度弓を手にした。

「あと何本あればいける?あたしが渡れるよう安全にしないとね〜♪」

「・・・と、とりあえず・・・4本。最低限4本だ。途中でツルが切れた場合を想定するともっと欲しいところだが・・・

・・・まあ、万一ツルが切れて俺が死んだら未来永劫お前を恨んでやるから安心しろ。」

ダンテがダークジョーク混じりにそう言った。

「へいへ〜〜い」
ダンテの言葉を聞いているのかいないのかよくわからない返事をしつつ、アルベは段取り良く矢にツルを括りつけていった。

そして、ダンテとソッテの力を借りてほかの矢も放った。


「そら我らがリーダー!がんばりたまへ!」

アルベが嬉しそうにダンテの方を見つめている。

ダンテはそんなアルベを無視して谷を横断している4本のツルを慎重に見つめた。

ツルの強度を手で推し量り、ゆっくりと体重を乗せてみる。

・・・まぁ、これなら、いけなくもないか・・?

存外頑丈そうなツルを確認してからダンテは慎重に渡り始めた。

・・・だが。

「・・・・うっ・・」

ある程度まで進み、谷が本格的に目に飛び込む状態になると、歩みを進めるのは予想以上に怖いものだった。
ツルの上に慎重に足を置いて進まなければならないのに、足元を確認するために下を向くと、
あまりの高さに足が竦んで思うように動いてくれない。


ダンテは耐えきれず、一旦引き返してきた。

それを含み笑いをしながら呆れるように見つめるアルベ。
文句を言いたい口をぐっと堪えて、しばらく心身を落ち着かせてから、ダンテは再び谷へと向かった。


これは、恐怖心との戦いでしかなかった。

下を見ると本能的に足が動かなくなることがわかってきたので、足元をなるべく見ず、
感覚を頼りに目の前だけを見て進むことにした。

足がツルの感覚に慣れてきた。
幸いりんごが気を利かせて、ツルを太めにしてくれたお陰で足が置きやすい。

しかし4本あるとはいえ、バランスを崩せば即死だ。


・・・今更ながらなぜこんな話に乗ってしまったのかと深く後悔し始めた。


リーダーを任されておきながら、リーダーらしいことが何一つ出来ていないという後ろめたさをアルベに見事に突かれてしまった。


集中しなければならないというのに、
こんな時に限って雑念が百も千も浮かんでくる。

いや恐怖を和らげるには幸いか。


いっそ薄目で進んだら良いだろうか。


とにかく足が竦むということは足が言うことを聞いてくれなくなるということだ。

つまりそのままバランスを崩して転落する事態に繋がりかねないのだ。




ダンテは無我夢中で祈りながら進む。
ルーミネイトの姿が頭を過った。

心なしか両足首が少し痺れてくる。
恐怖を覚えて足が言うことを聞かなくなって来たのだろうか。

大丈夫だ。大丈夫。そう自分に言い聞かせる。

りんごが言っていた言葉が重なる。

"すべてうまく行きます。私たちがそうするんです。”



・・・・。



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