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[8]狂想ドデカフォニー(page9)

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狂想ドデカフォニー 《もくじ》
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「見て!あれ!中庭に兵が集まってる!!」
ローザが螺旋階段の途中にあった小窓を見て叫んだ。

「ちょ、あんな大勢の兵相手に出来ないよ!」
ソッテが慌てる。

「このまま下りたら袋の鼠だな・・」
ダンテが呟く。


「塔の上まで引き返しましょう!」
りんごが突然そう言い放った。


みな一様に、ぽかんとしていたが、りんごの勢いに押され、なんだかわからないまま、急いで塔の最上階まで引き返した。
途中兵士を一掃しておいて本当によかった。

だが、最上階に上ったところで・・。


最上階の部屋で、りんごは自分が身につけていた魔法増幅装置の一部をアルベに装着しはじめた。

「何してんの〜?」
アルベは不思議そうに聞いた。

「アルベさんは飛行魔法が使えましたね。」

「え!あんなのアテにされても困る〜!
この世界、あたしのまほー、ぜんっぜん役に立たないから。」

アルベは赤髪の女性の姿をした天使で、
剽軽でちょっと適当な性格だ。

「ええ、少しでも使えれば何とかなります。たぶん・・。」

「ええっ・・」


そして、りんごは塔の奥の倉庫から緊急脱出用と思しきロープを取り出してくる。
ロープの長さは30メートルほどだ。

「まさか、このロープで脱出する気?でも下には大勢兵士がいるわよ?」

「下には降りません。飛び移ります。」

「飛び移る!?ロープで!?まさかあーんな遠くにある城郭に?」

ローザとアルベはとても不安そうだ。

りんごは次に、塔の最上階に設置してあった大砲の元へ向かう。

「や・・・やな予感しかしないな〜〜」
アルべが今にも逃げたそうにソワソワし始める。

「ローザさん、円形にシールドを張れますか?」
「え・・ええ、それは出来るけど・・まさか大砲の力で・・」

「最後はアルベさんの飛行魔法でどうにかするしかありません。」

「ええ〜〜〜っっ!!?」

りんごの言葉にアルベが驚く。

「時間がない、さっさとしろ。」
ダンテがそれを急かす。

りんごは大砲に弾が入っていることを確認し、高さを調節した後、

ダンテとりんごが持っていた魔法増幅装置をソッテとアルべ、ローザにそれぞれ分けて付けた。


「誰か近づいてきてる!」


扉の向こうで物音が聞こえてくる。

ここへ来る途中、扉を全部閉じて施錠しながら来たのだが。

思いの外到達が早い。


りんごが作戦の概要を話した。
皆が不安げな顔をする。
しかし、やるしかない。
みすみす兵士に捕まれば、何もかもが閉ざされてしまうのだ。

再び、自由になるのだ。

これに、賭ける。


ドォーーーーーーーーーーーン!


砲弾の凄まじい爆音と共に、ロープで繋がれた6人は砲弾の力に身を任せ、
一気に塔の最上階から打ち上げられた。


大砲のあまりに凄まじい威力を、倉庫にあったクッション材とローザの保護魔法で必死に耐え抜く。

天使たちは緩やかに放物線を描いて落下し始めた。

すぐさまりんごが音で変形する魔道具を取り出し、薄く広げてパラシュート状にする。

・・・そのときだった。

数本の矢がパラシュートに直撃した。

塔にいた兵士たちがパラシュートに向けて矢を放ったのだ。



りんごは慌てて歌魔法でパラシュートを変形し直し修復するが、矢の数が多すぎてキリがない。

そうしている間にどんどん地面が迫ってきた!

「この速度じゃやばいっ!!!」

ソッテの叫び声と共に、ダンテとソッテとアルべが3人で力を合わせて激突を回避しようとする。
ローザとりんごは塔から飛んでくる矢の防御に必死で衝突の方へ手が回らない。

そして・・、りんごたちが使った塔の大砲に、新しい弾が装填された。

「大砲の弾が飛んできます!!」

りんごが叫ぶや否や、6人は城郭に打ち付けられた。

りんごは背に負ったヴァイオレットを守りきることが出来ず、ヴァイオレットも城郭の地面に打ちつけられた。

慌ててりんごはヴァイオレットの生死を確認する。
なんとか生きているようだ。

相変わらず顔がつぶれてしまって表情が読み取れない。

りんごは涙が出そうになった。

自分だけが無事で申し訳ない、と、そう思った。

次の瞬間、地面に打ち付けられた6人に無慈悲な弾が容赦なく接近してきた。

砲弾のあまりの速さに、逃げる時間もない!

「アルベーーッ!!ソッテ!ローザ!!りんご!!!」
ダンテの叫び声は砲弾の音に掻き消えた。

弾は城郭を直撃した。

兵士たちがゲラゲラと笑っていると、上官らしき兵士が砲弾を発射した兵士を怒鳴っている。
"いつ戦争となるやもしれぬこの状況下でお前は城郭を破壊する気か!"と。

大砲が打ち込まれたであろう城郭の周囲には破壊された衝撃で粉塵が立ち込めている。

大砲の弾は城郭の一部を破壊し、沈黙を保っている。

塔にいる兵士たちが安堵する影で、粉塵の中からゆっくりと影が動いた。


「・・・おいみんな!無事か!?」

ダンテが辺りを見回すと、確かにそこに、5人の天使の姿があった。
風魔法が得意なソッテが粉塵を舞い上がらせて、兵士たちの目を欺いてくれていた。
アルべは着地と砲弾の衝撃を全力で防いでくれたようで、
その疲労から地面にへたり込んでいる。

ローザは一生懸命着地で出来た傷を癒やしていた。


先ほどの大移動と砲弾の防御で力を使い果たしてしまい、皆ボロボロだった。

だが幸い、塔に兵士が集結していたのと、夜明け前という時間帯のお陰で、城郭側の兵士はまばらで、しかも眠気で動きが鈍かった。

塔から城郭へ乗り移ったのが二時の方向でそこから城郭を伝って北へ約400メートルほど行った先に、城の裏へ出られる出入り口があった。

一番力の消耗がひどいアルベと、補助魔法しか持たないローザを庇いつつ、6人は城の北へと急ぐ。

もう空が白みかけていた。

塔の兵士たちが体勢を立て直して包囲される前にここを脱出しなければ。


「だめだ、あれを見ろ!塔の兵士たちがすごい勢いで北門へ向かっている!!」

「行動が読まれています。別の道は・・」

ダンテとりんごの会話にアルベが加わった。

「ねえ、みて、あれ使える?」

30メートルほど後方の城壁に、小さな楔が階段状に打ちつけられのたものがあった。

昔非常時に使っていた階段だろうか。

「・・・下の方しか無さそうだぞ。」
ダンテが渋い顔で言う。

その楔は城壁の上までは続いていなかった。


「さっきのロープがまだあります!・・!」
りんごがすかさずロープを見せ、ソッテたちにも手伝ってもらい一旦解いてから城郭にくくりつける。
ロープは砲弾や着地の衝撃などで所々痛みかけている。

「・・・そんなロープだけで・・大丈夫なのか?」
ダンテは不安そうだ。

「大丈夫、いざとなったら・・私が保護するから。」
ローザがかなり苦しそうに笑って見せた。

そのあまりの苦しそうな表情に、ローザの力がもう限界だということを天使たちは悟った。

「兵士がもうすぐ北門に到達する!!」
兵士の動向を見張っていたソッテが叫ぶ。

「私が鎹を打ち込みます!ダンテさん、ヴァイオレットさんをお願いします!!」

「は・・なんで俺が・・」

りんごはダンテの返事を待たず、とっととロープを伝って城壁へ降りていった。

途中、壁の石がひび割れた隙間を見つけてはガツン、・・・ガツン、と鎹を打ち込んでいく。

牢屋へ進入する際必要となりそうだと買っておいた鎹が簡易的な足場代わりになりそうだ。

「・・・できました!早く来てください。」
下の方でそう言う声が聞こえてきて、すぐにドボン、と水の音がした。
どうやら鎹を打ち終えたりんごは、城の堀に張り巡らされた堀に飛び込んだらしい。

「・・・はぁ・・、病気でも伝染らないか?」
堀の淀んだ水を見て、顰め面をしているダンテ。
この世界に来て一番に腹痛に見舞われたのもダンテだった。

そんなダンテを差し置いて、アルベがロープへ飛び乗った。
アルベが降りたのを見て、ローザがヴァイオレットを抱えて降りようとする。

ダンテがいつまでも躊躇して降りる気配がない上、
ローザがダンテに何度声を掛けてもヴァイオレットを背負って降りてくれそうにはなかったからだ。

ロープはだいぶ痛んでいるうえ、ローザの保護魔法は限界のようなので、
1人ずつ順番に降りるのが賢明だと誰もがわかっていたのだが・・・。


・・・・・ブチッ。



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