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[8]狂想ドデカフォニー(page22)

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狂想ドデカフォニー 《もくじ》
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ヴァイオレットは放心状態になって枯れ木のように立っていた。



・・・・・・・・。

しばらく頭が真っ白だったヴァイオレットに、意識が戻っていく。
残酷な現実を突きつける為の意識が。



「ぼくが、ローザを、・・・・ころした。」


ぽつっと、そう低く呟いた声を、誰も聞いてはいなかった。

ヴァイオレットはそのまま行方をくらました。


しかしそのことも、天使たちは気付かない。

ただ目の前に横たわるローザを生かそうと、必死に慣れない治癒魔法をかけ続けた。


皆の為に必死で尽くすローザのことは、必死で皆が救おうとする。

・・でも誰も、ヴァイオレットのことは助けない。誰も、ヴァイオレットのことを、助けられない。

誰も、ヴァイオレットを、助けようとはしなくなった。


こうしてヴァイオレットを憎む者が増えていく、偏見は偏見を増大させ、彼をより深い闇へつき落としていく。

誰もヴァイオレットのことを理解できない。
そして彼の罪がひとつ、ふたつ、みっつ、百、千、億・・・・。どんどん刻まれ、彼を殺していく。

闇の渦は闇を生み、光はそこに届かない。

ローザがヴァイオレットを助けようとして発したはずの言葉も、ヴァイオレットにとってはより闇へ突き落とす言葉でしかなかったように、
光は、闇へはとどかない。

もう何の救いも、そこへは届かない。


そしてダンテの憎しみと不信も、爆発的に膨れ上がった。

この循環を、誰も止める者はいなかった。


ヴァイオレットの放った闇が、天使たち皆に闇を伝染させていく。

それは大きな呪いとなって天使たちの心を蝕み、
そして天使たちの憎しみが、ヴァイオレットへそのまま返る。


闇の連鎖は無尽蔵に膨れ上がっていく。

誰もこの鎖を断ち切れない。


誰も彼を救えない。

彼は、奈落の底の底の底へ・・・。


「・・・う・・。」

少女の口から声が漏れた。

ダンテとテッペは電光石火の早さで顔を覗き込んだ。
ローザは目を閉じたまま、苦しそうにしている。

「・・・アルベ!治癒魔法だ!引き続き全力でやるぞ!!」
「もうやってるってー!!」
アルベとダンテは引き続き全力で治癒魔法をかけ続ける。

治癒魔法など本来使えないはずのダンテが必死で魔法を発動させているが、果たしてちゃんと治癒魔法として働いているのかはわからない。

アルベは多少補助魔法が使えるのでそれを応用してローザの回復を促している。

数時間経ったが、ローザは目を開かない。

「・・・どして・・・安定装置も近くにあるし・・・・ずっと2人がかりで治癒魔法をかけてるのに・・・」
アルベに段々疲れの色が見え始めた。
安定装置のお陰か長時間全力で治癒魔法をかけ続けられていたが、それにも限界が近づいているようだ。

「・・・はぁ・・・っ、・・・・、黙って治療しろ・・・」
ダンテも頬を引きつって苦しそうにしている。

数時間後・・・2人はついに、魔力を出せなくなった。
ローザは眠ったままだ。

2人はその場に倒れ込んでいる。
そのまま2人とも、疲れ切っていつの間にか寝てしまい、
日が傾き始めた。


最初に目覚めたのはダンテだった。

ふと瞼を開き身を起こしたが、自分が何をして、どこにいたのか一瞬わからなくなった。

あまりの出来事に、体も心もついて行っていなかった。

数分してダンテはようやく、今までの出来事を思い出し始める。
慌ててヴァイオレットの姿を探したが、どこにも見当たらない。
諦めて振り返ると、横たわるローザの姿が目に飛び込む。
ダンテはまた慌ててローザの生死を確かめた。

僅かに脈があった。・・・生きている!
ダンテは安堵のあまり、両手で顔を覆って長ーい溜息をつく。

そして再び顔を上げると、そこにはアルベが大の字になって熟睡している姿があった。


ダンテは柄にもなく、笑ってしまった。

ずっと緊張していた旅で、初めて心を緩めることが出来た瞬間だった。

その笑顔は、屈託無く、爽やかで大人びていた。

夕日がダンテの姿を赤く照らす。
優しく心地よい夕日に照らされて、ダンテは天を仰ぎ見た。

・・・・それを思い出したのはアルベが目覚めてからだった。

アルベの指摘で、ダンテは青ざめた。
ネペの言葉を思い出したのだ。


"日暮れまでに安定装置を奪取して戻らなかった場合、君たちの仲間は処刑されると思っていい"


安定装置・・・・。安定装置にアクセスさえ出来れば・・・。

今のダンテとアルベに為す術は無い。
大体、ネペはたったの1日で安定装置を取り戻せると思っているのか?
ヤンゴン兵もうじゃうじゃいる中、俺たちは実質たった3人なんだぞ・・?!


しかも・・・目の前のローザも目覚めない。


ダンテは無様に言い訳を考えることしか出来ずにいた。

「・・・ねー、ダンテ・・・。」
気がつくとアルベがダンテの顔を覗き込んでいた。
ダンテは我に返り、さっとアルベと距離を置く。
相手が天使とはいえ無断で自分の距離内に入られるのは心地良いものではない。


あからさまに避けられたアルベは、ダンテの左肩にデコピンならぬ肩ピンをお見舞いする。

「・・・なんだ。」
ダンテはアルベに背を向けたまま不機嫌そうに言葉を発した。
「あ・・・なんだっけ。」
アルベがすっかり言いたいことを忘れてしまったのを見て、ダンテがギロリとアルベを睨む。

「・・・あーーー、そうそう・・・えーーーーっと・・・・・・。
・・・・えーーーっと?」
頑張って間をつないでその隙に思い出そうとするアルベ。

「あっ、そう、安定装置。あれに強い光を当てれば安定装置起動するんじゃない?」

「・・・強い・・・光?」
ダンテがやっと体をアルベの方へ向けた。

「うんそーーーだな・・・。治癒の羽とか!」
「・・・治癒の羽・・・。」

ヴァイオレットが行方不明の今、治癒の羽は俺が所持している2枚と、アルベのが1枚、そして今横たわって目覚めないローザのものが1枚。

・・・・。しかし、
意識が戻らないローザを置いて、治癒の羽を使用しても良いものだろうか・・・?

いや、安定装置が起動しさえすれば、ローザの傷も一瞬にして癒える。きっと目覚めるはずだ・・・!

ダンテはそう結論を出し、治癒の羽を取り出した。
アルベが横で頷く。

ダンテとアルベはローザを安全そうな岩陰に隠して、安定装置のもとへ向かった。

・・・今度こそ失敗は許されない。

そう、今度こそ、何が何でもやるんだ。

もう後がない、ここで失敗すれば、ローザも、ソッテもりんごも、そしていずれ俺たちも、みんな死ぬ・・。



ダンテは四面楚歌の覚悟で安定装置のあった場所へ向かった。
だいぶ走って逃げてきたので、距離がなかなか遠い。

なんとか日暮れに間に合わせなければ。

安定装置さえ起動してくれれば、俺やアルベも含めて安定装置ごと一気に瞬間移動することだって出来るはずだ・・!


ダンテはアルベと全力で走った。安定装置のあった森林へ入り、安定装置の気配を辿る。

アルベのいう安定装置が放つ"神さまのにおい"を頼りに焦りながら全力で進んでいった。

・・・しかし、そこには・・・。


「あれ?あれ何?なんで・・・・」
アルベが困惑してダンテの方を見た。

それもそのはず。そこにいたのはヤンゴン兵でなくイピ兵だったのだ。

そしてその中央には・・・・。

「ねっ!あそこ・・・!ネペがいる!!ネペのうしろに安定装置がある・・・!!」

イピ兵はヤンゴン兵を押さえ、この地と安全装置を奪取したようだった。

「・・・まずいぞ・・・!」

安定装置がイピに渡ったのなら、人質であるソッテとりんごの存在価値が無くなる。

彼らが殺されてしまう・・!


そう思った瞬間だった・・・。

ダンテたちはイピのローブ兵に取り囲まれていた。
うまく隠れていたつもりだったのだが、
ネペがダンテたちの魔力に感づき、密かにイピ兵を差し向けていたのだ。

ダンテとアルベはどうして良いかわからぬまま、ネペの元へ連れて来られた。

「今から安定装置を取り返しお前の元へ戻るはずだったんだ・・・それなのになぜお前がここにいる・・?!」
ロープ兵に取り押さえられたダンテがネペを睨みつけている。

「そうか、ご苦労だったな。でももう必要なくなった。」
ネペは冷たく笑ってそう言った。

「ソッテとりんごはどこだ!!?」
ダンテが再び叫ぶ。

「さあな、もう気にする必要もないさ。」
ネペはそう言い、顔をくいと上げた。
するとすぐさまイピのローブ兵がダンテたちをその場から退場させた。

そのままダンテたちはどこかへ連れていかれ、牢屋へとぶち込まれた。

「・・・くそっっ!!何なんだ!!!最初から俺たちのことなどアテにもしていなかったのか!!」
ダンテが牢屋の鉄格子を掴み、ガタガタと力任せに揺らしている。

アルベは隣で顔を伏している。

もうダンテとアルベに出来ることなど残されてはいなかった。
ソッテとりんごはどうなったのか、もう知る由もない・・・。


せめて・・・せめてここから出て・・・。



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