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[8]狂想ドデカフォニー(page16)

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狂想ドデカフォニー 《もくじ》
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「今だ、君の棒を漕いでくれ!」

女の指示でダンテがパドルを目一杯漕ぎ、ボートが左側へ進路を変える。

岩を辛うじて避けられた。

「まただ、君、もう一回!こんどは多めに漕ぐんだ。」
ダンテは力一杯パドルを動かす。
ボートが勢いよく旋回する。
アルベの目が輝いていた。

ローザがボートの上で立とうとするアルベを押さえる。

「もう、アルベったら、こんな大変な時に。りんごとソッテを探すの忘れてない?」

「探すってば〜立った方が探しやすいし〜?」

「んもっアルベまで川に落ちたら助けてあげられないわよ!」
ローザとアルベの会話の横でネペとダンテはボートのコントロールに必死だ。


途中、何度か岩に当たりかけたり、少し衝突したものの、なんとか沈没せずに川の中域まで来られた。

大分長い距離、川を下って来たので、辺りは少し赤みかけている。

「・・・よ、ようやく・・・森を出られたのか。」
ダンテがボートの上で力尽きていた。

ネペも同様に疲労の色が見える。


それとは対照的に、アルベはとても楽しそうだ。

「・・あれー、りんごたちいなかったね、もっかい下ってみる?」

アルベはあの川下りのスリルをもう一度味わいたいみたいだ。
そんなアルベの横で、ローザは浮かない顔をしている。

「・・・・あれ?ローザ?」
アルベがローザの暗い顔に気付いた。


「ここまで川の下流に来たのに、ソッテもりんごもいなかったわ・・。」
「う・・うん・・・。」
「もしかして兵士に連れて行かれたのかしら、それともどこかで・・・」


「良いか君たち、よく聞け。このままホウス川を下るとイピとロンバヌの国境に出られる、が、このままのこのこと川を下っていたらイピの兵とロンバヌの兵両方から攻撃を受けかねない。
よって、もうしばらく下ったら国境沿いの川に合流する前にボートを撤収する。」

「えーーー」
ネペの正論にアルベが意義を唱えている。
アルベは歩くのがお嫌なんだそうだ。

「よし・・・このあたりだな。」
ネペの指示でボートを岸に着け、ボートを撤去する。

「せっかく作ったボート壊すの!?」
アルベがまた意義を唱えた。

「完全に壊すのではない、ただこんなところにボートを放置していたら怪しまれかねないだろ。」
ネペはそういうと、ボートを分解し、近くの雑木林にボートを隠した。

「いずれにせよこのボート、誰かのせいでそこかしこぶつけたからあまり長くはもたんだろう。」
ダンテはアルベを見ながら言う。
アルベはそっと、目を背けた。

「ここからは歩きだ。ロンバヌの最南東端の村があったはずだ。」

「あ゛ー歩き・・・・・。」
アルベがぐだぐだし始めた。

ネペを先頭にダンテとローザ、ヴァイオレットが続く。
置いてかれているのに気づき、慌てて後を追うアルベ。

一行が村に着いた頃には、すっかり夜になっていた。

ネペは村に近づくとフードを被り、先頭をダンテに任せた。
ネペは何か顔が割れると困ることがあるのかもしれない。

ダンテ一行は宿屋の戸を叩く。
夜も更けているにも関わらず、宿屋の主は部屋を提供してくれた。
少し足下を見られて割高な宿泊料を取られはしたが。

それでもダンテたちにとっては、いつぶりのベッドだろう。

固い地面以外のところで寝られる至福を味わっていた。

アルベとローザが部屋で荷物の整理をしていると、ダンテが緊迫した顔で入ってきた。

「さっき、ロンバヌ兵を見かけた。」

ダンテは小声でそう言った。

「・・・ロンバヌ兵?それはそうだ。ここは国境に近い村だから、国境警備隊の休憩所にもなっている。」
ネペが冷静に答えた。

「はぁー前途多難・・ですなぁ〜」
アルベが脱力しながら言う。

「今はもう夜も遅い、早く休んで明日策を考えよう。」
ネペの促しで、とりあえず今夜は休むことになった。


ー翌朝、騒がしい声で睡眠が解かれた。

"イピとヤンゴンの戦争が始まったぞー!”

村の人もロンバヌ兵の動きも慌ただしい。

"ヤンゴン、ってあの近頃最強不死軍団がいるってうわさの?"

"ロンバヌはどうなるんだ!?"

人々が口々に騒いでいる。


「・・始まったか。好都合かもしれないな。」
ネペがぼそりと呟く。

「イピ・・?と、ヤンゴン!?が戦争って、あたしたちイピにいけなくなったってことー?」
アルベが取り乱している。

「いや、むしろ混乱に乗じてイピに入国しやすくなったかもしれないぞ。」
横で荷支度を整えていたダンテが言う。

「戦争し始めたのってイピとヤンゴンでしょ?
なのにさっきからずっとすごい量のロンバヌ兵がうろうろしてない?」
窓を眺めながらローザが言った。

「この機に乗じてロンバヌも動くのかもしれないな・・。」
ネペは髪を結い直していた。

「・・んーーつまり、あたしたちイピにいけるの?いけないの?」
アルベは相変わらず混乱状態だ。

「・・しばらく様子を見てみるか。」
ダンテの提案にネペも同意した。

ローザはソッテとりんごのことが気にかかっているようだった。
アルベは疲れがたまってそれどころではない様子だ。

村でロンバヌ兵がうろうろしていたこともあり、一行は大人しく宿で数日過ごした。

「・・・はぁ・・・これで、4日目だが、ずっとここにいるわけにもいくまい。
俺の懐もそろそろ厳しいぞ。」

「あー、せめてお金を稼げたら〜〜」

「ロンバヌ兵がずっとうろうろしてるものね。」

「・・・つかぬことを聞くが、君たちはロンバヌで、何かやらかしたのか?」

ずっとロンバヌ兵を避けている様子のダンテたちを見て、ネペがそう聞いてきた。

「えっとそのぉーーー」
アルベが言いにくそうにしている。
「冤罪をかけられて脱走してきた。お前こそ何故ロンバヌ兵を避けているんだ?」
ダンテが質問する。

ネペはしばらく黙っていたが、やがて重い口を開いた。

「・・・私はイピにいたんだが・・・、その、ロンバヌに来て情勢が変わり、ロンバヌにそのまま取り残されてしまった。
ロンバヌ兵には顔が割れていてな、あまり表だって行動出来ないんだ。」

「みんなロンバヌ兵に見つかるとまずい身ってことね。」
ローザが話をまとめた。

宿に引きこもって数日すると、こんな会話が窓の外から聞こえてきた。

「最近タイヘンだねぇ・・イピがヤンゴンに攻め入ったと思ったら、今度はロンバヌがイピに侵攻するとは。」
「やっぱあの停戦協定、はなっから破るつもりだったわけか。」
「んでもロンバヌの王妃さんイピの出身じゃなかったかー?
悪女で名高い王妃さんも、今度ばかりは肩身が狭いんでねえのー?」
「んまあ俺に政治のことなんぞわかんねえが、
そもそもなんで王妃はオッレム枢機卿を暗殺してヤンゴンとの戦争を止めたんだ?」
「ロンバヌを守るためじゃねえのかよー?
ヤンゴンの不死身の戦隊と戦ったらロンバヌが壊滅すんだろー?」
「・・でもよ、今イピとヤンゴンが戦ってんだろ、んでロンバヌもイピに攻め入った。
ならイピがやばいんじゃねえか?あの王妃が黙って故郷が滅びるのを見てると思うか?」
「・・じゃあどうするってんだ?」
「・・さあね、んなの庶民の俺がわかるかよ。」
「なんだ、わかんねえのかよ。」
「俺たちにわかるのは今稼ぎ時ってことだけだ、武器と食料大量に売り込むぞ!」
「なははは!戦に巻き込まれて死んでも弔ってやんねえぞ!!」
「がははは!余計なお世話だっ!!」

一部始終を黙って聞いていた天使たちとネペ。

どうやらイピは今、ダンテたちのいるロンバヌと南西にあるヤンゴンの2国と交戦中のようだ。

そういえばこの村をうろうろしていたロンバヌ兵も、今朝から姿を見ていない。
皆イピに攻め入ったのだろうか?

「・・・よし、兵も見あたらないし、少し国境付近に偵察に行ってみるか。」
ネペの提案に皆同意した。

天使たちはロンバヌ兵のいなくなった村で食料と武器と道具を買い込み、国境付近へと向かった。

村から数日かけて、ようやく国境が見えてくる。

こんなに遠いなら、ホウス川をボートで下って行った方が早かったのではとアルベが言うと、
川付近は戦地になりやすいから避けた方がいいとネペが答えた。

ネペの言うことはある意味当たっていたことが、国境付近に出てわかった。

ロンバヌ兵が川の流れを利用して物資を運んでいたのだ。

もう少し川を下るのが遅ければ、このロンバヌ兵らとはち合わせていたかもしれなかった。

ローザたちは胸をなで下ろすと共に、ソッテとりんごのことが余計に心配になった。

しかしネペの言うとおりなら、崖付近にりんごたちはいなかったようだし、川を下りながらアルベとローザでりんごたちを探してみたが、それらしき姿は見当たらなかった。


アルベたちはソッテやりんごのことが気にかかってはいたものの、ほかに探す当てもなく、定期的にネペの魔法で居場所を探ってもらったが居場所も生死のほどもわからなかった。

そして、遂にイピに渡る決断を下すことになった。


アルベはまだ納得がいっていない様子だったが、ほかに手だてが見つからなかった。
ローザも同じような心境だ。

「夜を待って川を渡ろう。今このまたとない好機を逃すわけにはいかない。」
ネペがアルベたちを諭すように言う。

「・・ああ、ここまで来たら・・・行くしかない。」

ダンテもネペに同調する。

ローザとアルベだけが暗い顔をしていた。

ヴァイオレットは、相変わらずいるのかいないのかわからないほど、一言も喋ることはなかった。


・・・そして、夜。


一行は出発した。雲で月が隠れている真っ暗な夜、一行は再び簡易ボートを作り、夜の川を横断し始めた。

予め、兵士が横断する川の位置は昼間の偵察で把握済みだ。

兵士たちに鉢合わないよう、兵の横断場所から大分距離をとった地点を横断している。


・・・静かだ、水の音以外何も聞こえない。


こんな静けさはかえって不安を誘う。


今、どこで交戦中なのかもわからない。
闇雲に動いて戦場にはちあわせては危険だ。

また残党狩りに遭うのも避けなければならない。


それにダンテたちは、イピの地理に詳しくない。
素性すら確かでないネペの先導のみに頼るのは危険だが、今はそれしか方法がなかった。



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