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[8]狂想ドデカフォニー(page3)

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狂想ドデカフォニー 《もくじ》
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・・・・・下を見ると・・・、そこには、
丸くうずくまってうめき声をあげる天使りんごの姿があった。


さっきのローザの光景といい、今のりんごの姿といい、
なんて惨たらしいのだ。


まだこの世界に来て間もないというのに、ここまで命を命とも思わないのが、
天界以外の世界ではふつうのことなのか・・?






「おい・・・だ、大丈夫か・・・。」

ものすごく頼りない声で、ダンテが声を掛けた。

りんごは何か返事をしようとしたが、苦しそうに呻くことしか出来ないようだった。


ダンテは治癒魔法は専門外で、手当もろくに出来ない。
天界の救護班たちが集う癒治宮へ行こうものなら、速攻で追い出されること必至だ。

ダンテはまた頼りなく声をかける、が、りんごは苦しそうにしていて、ダンテの相手をするどころではない。

こういうときのダンテはとことん無力だった。


とても苦しそうなので、どこか暖かい場所へ運んでやりたかったがそれも諦め、
代わりにその辺の落ち葉を集めて布団代わりにかぶせてやった。

今ダンテに出来ることはそのことぐらいだ。


・・・・りんごの回復を見守っていて、ふと、治癒の羽の事を思い出す。

・・・今こそ使うべきかと思い、取り出してはみたものの・・・。


・・・・なぜか躊躇われる。


天使が4人も捕まってしまった。
安定装置の場所すらわからない。


しかもまだ、異界に来たばかりなのだ。


・・・・こんな来て早々使ってしまったら・・、本当に大事なときに取り返しのつかないことに・・・。



ダンテは波のように押し寄せる不安を必死で振り払った。
だが今の深刻な事態がダンテに"責任"という2文字を重く突きつけた。

こう静かだと、しかも目の前に怪我人がいて治すことすら出来ない自分を見ていると、
己を攻める言葉しか浮かんでこない。


とはいえ、怪我人をこんなところに放っておくわけにもいかない。

ダンテはいつも蔑んでいるヴァイオレットのように、もやもやと憂いを抱えて座っているしかなかった。


数日して、幸いにもりんごに回復の兆しが見えた。
・・・が、代わりにダンテは痩せこけていた。

その辺で見つけた食べ物は、自責の念もあって殆どりんごにやったので、自分はあまり何も食べていないのだ。



りんごはそれに勘付いてか、申し訳なさそうにしていた。
微かに話すゆとりの出てきたりんごが、か細い声でゆっくり話しかけた。
「・・・こうしてまた言葉を紡げることは奇跡と祝福の賜物です・・、そしてあなたのお陰です。

ですが・・・・。」



「・・・俺のことはいい。だが、すまない、ローザたちを助けるのに協力して欲しい。」


「もちろんです・・でも、それには万全な状態で臨まねば・・またこの間の二の舞になりかねません・・。
・・なにか、策を立てて、味方を増やしますか?」


「・・・そうだな・・・、そもそもこの世界のことについての情報が少なすぎる。まずは情報を得ねばならん。」


りんごはそれを聞いて、ゆっくり起きあがった。
ダンテが慌てて止めようとしたが、情報を集めるくらいなら出来るとりんごは言った。



何はともあれ、食糧が無くては話にならない。
出来れば安全に寝泊まり出来る場所も欲しい。

そして情報を得たい。となれば自ずと行く先は人の多い都心部ということになる。

ただ、兵士に捕らわれたということは、都心部は危険と隣り合わせでもある。

とはいえ、捕らえられた後ローザたちに何をされるかわからない以上、事は一刻を争うのだ。


とりあえず、ダンテとりんごは人の気配のしそうな方向へとひたすら歩いていった。

辺りには人っ子一人おらず、焼け野原や荒野が続いている。

情勢が不安定で、内乱や戦が多いのかもしれない。

・・・とんでもないところに来てしまったものだ・・。



いつも、安心できない。命の保証がない。


それがこんなにも心をすり減らしていくものだとは知らなかった。


この世界の住人がみなやせ細り、不信感を抱き、瞳に光が宿っていない。

ダンテもこの世界に長くいると、ああなってしまいそうだと思った。


荒野をずっと歩いていき、山を越えたところで、景色がぱっと開けた。

西の方に都市があるのがうっすらと見える。

あそこまで何キロあるかわからないが、とりあえずそこを目指すことになった。

西陽で都市が雌黄色に輝いている。
なんとも幻想的な風景だ。

そんな美しい場所を目指して歩いていると、自ずと力も湧いてくるようだ。


ダンテとりんごの足取りは些か軽くなった。

都市に近づくにつれ、主要な道路から馬車が出入りしているのが確認出来た。

中に兵士たちが乗っていることもあり、ダンテたちは隠れながら進んだ。


都市に着くと、通行手形を求められた。

実はこういう準備はしてきており、通貨と身分証明のものを門番に見せた。

門番はてきとうにそれを見ただけで、すぐに通してくれた。

後で知った話だが、ここは商人の町ということと今は戦時中で混乱しているため、
地方に人員が割けず、通行審査が簡略化されているのだそうだ。

逆に、主要な都市はスパイなどの進入防止のため、通行が普段より厳重になっているのだとも聞いた。



ここの住人は、最初見た人間たちよりは裕福そうで、そこそこまともな体つきであった。

最初の村の住人のように貧困からか皮膚が黒ずんでところどころに出来物が出来ているということも無いようだ。


「・・・よし、ここなら寝られそうだ!」

ダンテの目が輝いていた。

今までよほど辛かったのだろう、と横でそれを見ていたりんごは思った。

少し緊張しながら宿屋の亭主に貨幣を見せると、これまたすんなり通してくれた。

「見ろ、屋根があるぞ、腕も伸ばせる・・!」

いつになくはしゃぐダンテを見て、りんごは静かに微笑んでいた。


シーツはところどころ継ぎ接ぎがあり、少し臭いもする。
が、テントの時の独特な臭いに比べたらこんなのは微々たるものだし、何より体に羽織るものがあること自体が素晴らしい。

持ってきた貨幣が通用しそうなので、ダンテとりんごはその貨幣で夕飯を食べ、再び宿に戻ってきた。

そしてあることに気づく。


「・・・・・なんだ・・?さっきからやけに物音が・・・。」
「ダンテさん、おそらく壁が薄いのです。」


ゴトッゴタッ、と乱暴な音が壁の向こうから聞こえてきた。
隣の部屋の宿泊客が帰ってきたらしい。

しばらくして酒のようなものを酌み交わし、盛大に騒いでいるようだった。

「・・・・お、俺の・・・安穏が・・・静寂が、・・・安眠がっっ・・・!」
嘆き悔しがるダンテをりんごがゆっくりと宥める。
「・・・落ち着いてください、ここには寒さを凌げる屋根や布団もあります。
それに夜になれば隣も寝静まるはず。」

小声で喋るダンテとりんごとは逆に、壁を隔てた向こう側から無遠慮な大きな声が聞こえてくる。
数人の荒くれていそうな男たちが会話しているらしい。

男A
「ガーーッ、しかし聞いたか?ヨォ!?
オッレム枢機卿が暗殺されたらしいが、裏で糸を引いたのはあの王妃って話じゃねえか!ナァ!?」

男B
「フゥーッ!こぇえこええ。枢機卿の主治医が毒を盛ったとかで罪を問われて死刑だろ?」

男C
「それが俺たちとなんか関わりあんのかよ?」

男B
「バカ!俺たちの契約がナシになったのはあの暗殺が原因なんだっての!」

男A
「お隣サンに仕掛けようとした戦がオジャンだってな!」


ダンテ「・・・・・・・・・・。」

会話の一部を盗み聞きしていたダンテは黙って地図を取り出した。
実は夕方の腹拵えのついでにこの世界の情勢を知ろうと、地図と本を購入し、住人に話も聞いた。


ダンテの開いた地図を、りんごも黙って覗き込む。

「・・・ここが、今いるウギュナ領サマイテの町。
・・・そしてここはロンバヌ帝国の支配下にある。」
ダンテが聞き込みした話をもとに地図上で情報整理を始めた。
「・・・はい、それで、お隣から聞こえてきた話ですと、ロンバヌ帝国にはオッレム枢機卿という方がいて、
その方が暗殺された為に隣国への戦争が無しになったと・・・。」

ダンテ「・・・・隣国とはどこのことだ?」

壁から聞こえる話はすっかり違う雑談になっており、情勢に関する有力な手掛かりは得られそうにない。

りんご「・・・隣国は、4つあります。」

地図に拠ればロンバヌ帝国の周りには西にハズラ国、東にプットル国、南西にヤンゴン国、南東にイピ国がある。

そして北には、標高の高そうな山の絵が描かれていた。


ダンテ
「とりあえず、ローザたちはロンバヌ帝国に連れて行かれたということか・・兵士の身なりからして、
なかなか良い鎧だったしな・・。」

りんご
「わかりません、領主の私兵ということも考えられますが・・。」

ダンテ
「どちらにせよ、動機がわからないな。なぜローザたちを連れ去ったんだ・・?」

りんご
「安定装置のことと、何か関係があるのでしょうか・・。」
ダンテ
「安定装置・・?」


・・・そういえば安定装置についての情報は皆無だ。
しかしあれは、なかなか力の強い代物で、この世界でうまく機能するのかどうかはわからないが、
その装置の周辺に本来この世界にない影響が出ている可能性はある。

「連行された天使と安定装置・・・。」

・・・・ダンテはしばらく考え込んでみたものの、今の情報だけでは何も閃かない。


「よし、ロンバヌ帝国の首都を目指そう。ここからそう遠くない。」

それを聞いてりんごが少し不安そうな顔をした。
無計画に足を踏み入れて自分たちまで捕らえられたらどうするのかと、言いたげな顔だ。

ただ協力者を探そうにも、皆戦で疲弊していて、誰かを手伝う余裕など無さそうだ。

貨幣も多めに準備はしてきたものの、貨幣に変換する元となるエネルギー体が尽きれば
貨幣に変換できなくなって飢えてしまう。

いざとなれば、このエネルギー体を食糧に変換することも可能ではあるが、
このエネルギーは元々貨幣変換のために用意されたものなので、とても変換効率が悪いのだ。

なので、ダンテとしてはなるべく貨幣として使うためにとっておきたいらしかった。

唯一言語に関しては殆ど困ることがなく、
この世界で主に使われている言語は肉体を纏う際にすでにインプット済みだ。

無策で首都を目指すのはある意味とても危険な行為かもしれないが、この町で何日手を拱いていても、
事態が改善する気がダンテにはしなかった。

今いるサマイテの町は首都ロッカから南西に位置するらしいので、
大通りを辿って北東に進めば、迷わず首都に行けるということも、すでに聞き込み済みだ。

ダンテとりんごは出きるだけ食糧と旅に必要な備品、そして薬品を買い込みサマイテを出発した。


道中、また兵士の姿が見えたので、ダンテとりんごは慌てて布で顔を隠した。




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