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[8]狂想ドデカフォニー(page5)

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狂想ドデカフォニー 《もくじ》
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1日余分に時間を取ったことは正解だった。
何事も焦るといけない。
ダンテが買い込んだ道具に一部不具合が見つかった。
ダンテは昨日の市場で物品を良いものと交換することに成功した。
せっかくの貴重な資金で買った命綱でもある火薬や煙玉やロープなどが不良品では、助かるものも助からない。

りんごは街に聞き込みに出ているらしかった。

ダンテは今日の決行に備えて早めに宿で休むことにした。
しばらく宿で寝ていたが、りんごがドアを叩く音で目が覚める。

気がつくと、りんごが真剣そうな顔でダンテの横に立っていた。
「来ていただけませんか。」
りんごがそう低くつぶやいた。

眠気がまだ残る状態で、ダンテは宿の階段を下り、宿の裏の道を奥へ進み露地裏のようなところまで歩いた。

そこにいかにも何かありそうな男たちが数人いたので、ダンテは瞬時に戦闘態勢をとった。
それを慌ててりんごが制止する。
りんごによれば、一緒に城に同行してくれる協力者を捜していたんだそうだ。
俺だって昨日協力者は探したが、見事に断られてしまった。
・・・・なぜこうも違うんだ。

不服な気持ちを押し隠して、ダンテはりんごの説明を聞く。
どうもこの人間たちは、牢屋に家族や仲間が捕らわれているらしく、
この混乱時に冤罪や理不尽な罪で投獄された家族や仲間を救出したいんだそうだ。

協力者の1人がこう話した。
「3日後、南方の国境付近にあるオップの村に傭兵を派遣するらしい。
普通傭兵は城1階の中庭付近にある寄宿舎辺りしか出入り出来ないんだが、今日王が直々に傭兵にお言葉を下さるんだ。」
別の男が話す。
「俺ァずっと傭兵してたが、前回の戦争の前に王の挨拶があったのが確か2階の広間だったな〜。」

牢屋へ通じる道はいくつかあるが、
2階へ行けるとなると、2階東側の階段から通路を通ってさらに地下へ行くのが手っとり早いだろう。

ダンテたちは城に入り牢屋まで行く順序を男たちと確認しあった。

そして、各々準備が出来次第ばらばらに傭兵として入城することになった。

2人きりに戻ったダンテが、りんごに問うた。

「・・・あいつら、信用出来るのか?」
「・・・わかりません、ただ、重要なことは何も話してはいません。」
りんごは、自分なりに口の堅そうな人間を選んだと話した。
そして動機が比較的誠実そうな人間を選んで声を掛けたのだという。

「・・・まあ、奴らに過度な期待は禁物だな。」
ダンテはそう言い、城を目指した。
りんごも後に続く。
万一何かあった場合に備えて、入城する際はダンテとりんごは2人で行動すると決めていた。

魔力増幅装置をいくつも身につけた今、たった2人、だが、2人なら、なんとか最悪の状況でも切り抜けることが出来るかもしれないという算段からだ。


2人の鼓動は今までにないくらい高鳴っていた。
もし入り口で捕らえられたら・・・ローザたちを救出することがとてつもなく困難になりうる。

念のため変装はしていた。
りんごは髪を切り、土で肌の色を黒くしていた。
メガネはこの国では貴族以上の人間しか身につけられないほど貴重らしく、これくらいの変装しか出来なかった。
とはいえ服装もあいまって、一目でりんごだとは気づきにくい。

ダンテは髪の色を黒く染め、顎髭を生やしてみせた。
どこからどう見てもダンテとはわかるまい。

城の前の大きな門で、傭兵として来た旨を門番の兵士に伝える。

するとまもなくしてゆっくりと門が開いた。
・・・と、同時に、門の奥に夥しいほどの兵士がいるのが目に飛び込んできた。

今まで兵士が通る旅に顔を隠したり身を隠していたというのに。

ダンテたちは背筋が冷たくなったが、ここで引き返すわけにはいかない。

兵士たちは忙しいらしく、大勢いる兵士の中から下っ端のような兵士が1人こちらに来て粗っぽく傭兵の寄宿舎に通された。
数時間後に王からの挨拶があるから身なりをきちんとしておけ、とそう言われた。

傭兵の寄宿舎にも相変わらず兵は沢山いた。
正直、あまり生きた心地がしない。
ダンテたちはそう思った。

この数の兵士を相手にすれば、さすがに増幅装置を身につけまくったダンテとりんごでもどうなるかわからない。


とにかくなるべく2人は存在感を消し、身を潜めるようにして傭兵たちに混じっていた。


2人とも、必要以上に、不自然に無言だった。


岩のようにじっと、傭兵の集団の中にいた。
傭兵たちの色々な雑談、不満、喧嘩の声が空間を彩った。
時々、兵士がやかましい!と怒鳴りに来た。

取っ組み合いを始めた傭兵もいた。騒ぎに気づいて兵士たちが傭兵の取っ組み合いを引きはがして怒鳴った。

その間もずーーっと、りんごとダンテは大人しかった。
元より個人主義で寡黙な2人だ。
どうしても必要でなければ話すこともしない。
クールであり、ドライでもある2人はある意味相性が良いかもしれない。

ふつうはこの辺でヴァイオレットやローザが茶々を入れてくるんだが・・・・

ふとダンテにそんな想像が過った。
慌ててそのイメージを掻き消す。

俺は・・・・半天使を助けたいわけじゃない。
ただ、俺には責任がある。
俺は任されたんだ、装置の回収を。
そして託された、任務に同行する天使たちを。
そうならば、俺はチームの指揮者として、何としてでも全員の天使を無事に連れ帰らないといけない。

「・・・それが俺の、責務だからだ。」

言い訳のように、ダンテがぽつりと呟いた。
りんごは静かにその独り言を聞いていた。


バン!
それまでの空間を切り裂いたのは兵士だった。
「傭兵ども、今すぐ広間へ向かう!王からお言葉を賜る。ゆめゆめ失礼のないように!俺についてこい!」
迫力のある大きな声で、兵士が叫んだ。

さっきまでのざわめきが嘘のように静まり返り、兵士たちに促され傭兵たちは整列して兵士の後についていく。


来たか・・・!

ダンテは目を見開いた。

りんごも緊張を隠せないようだ。


傭兵に紛れて、ダンテとりんごも広間のある2階へ向かう。


1階の入り口とは違って、大分兵士の数が少ない。

・・・さて、ここからだ。

傭兵の群衆からりんごはすぽっと抜けて、すかさず柱に隠れる。

ダンテも後から群衆を抜け、向かい側の柱に隠れた。

傭兵の群衆の中で、誰かが暴れ始めた。
廊下にいた兵士たちのうち数名が、何事かと傭兵の群衆の方へ向かう。

その隙にダンテとりんごは東の牢屋へと続く階段へ向かう。

階段近くの兵士を隙をついて気絶させる。
ダンテは左側、りんごは右側。
絶妙なコンビネーションだった。


密かに群衆から抜け出していた協力者の男4人がダンテたちと合流し、気絶した兵士の鎧を身に纏う。

りんごたちも同じように物陰に隠れて素早く鎧を身に纏った。

城内ではその材質と構造から1つ1つの音がとても響きやすい。
だが、協力者の男が群衆の中で騒ぎを起こしてくれたため、兵士を気絶させた音や鎧を身につける時の音が騒動でうまくかき消された。

東階段へと続く残りの兵士を気絶させ、鎧を剥ぎ、兵士を物陰へ隠した後、
牢屋へと続く階段を兵士らしい凛然たる態度で降りる。

階段を下りていくと温度が徐々に冷たくなり、湿気を帯びてくる。
豪奢な階段は段々と粗末な作りに変貌し、妙な臭いが鼻をつく。

拳ほどもある頑丈な鉄格子を後ろに、牢屋の門番である兵士がこちらを捕らえた。

「何者だ。所属部隊を言って許可証を見せろ。」
「緊急の用だ。すうききょうの件で急ぎ尋問せねばならん。とっとと通せ。」


ダンテが冷静に、そして高圧的に言い放った。
その気迫に押されてか、門番の兵士たちは怪訝そうな素振りを見せながらも、ダンテたちを通してくれた。


鉄格子の入り口をくぐった瞬間、すぐさまガシャン、と扉を閉められる。
一行は危機感を募らせながらも、牢屋の先へ進んだ。


兵士に扮装したダンテたちは各々牢屋の中をくまなく探す。
協力者の男が小さな声を上げ、ダンテの背中を小さくつつく。
どうやら助けたい仲間があの牢屋にいるらしい。


しばらくして他の協力者も家族や仲間がいるらしい場所を合図して訴えた。



・・だが、

一番奥の牢屋まで進んではみたものの、ローザやヴァイオレットたちの姿が見当たらない。


おかしい。
城に進入する前、この国の紋章を見たがローザたちを連れ去った兵が乗っていた馬と同じ紋章が描かれていた。
そのため、ダンテとりんごは他の可能性を捨てて、この城の進入に賭けたのだが・・。

なぜいないんだ。
そもそも推測が間違っていたのか、

他の場所に連れ去られた?


ざわつく胸を抑え、作戦を立て直すためダンテは一旦牢屋から出ようとする。

それに納得しなかったのが協力者の男たちであった。
引き返そうとするダンテを見て、
男たちが抗議の目を向けた。

今にも飛びかからんばかりの勢いである。

その不自然な態度に、牢屋にいた兵士たちの視線が一気にこちらを向く。




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