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[8]狂想ドデカフォニー(page15)

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狂想ドデカフォニー 《もくじ》
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「いや人だ、声からして。」
再び右往左往するアルベにダンテが冷静に答える。


「お前たち、何故この洞窟に近づいた?」
洞窟の主らしき者が尋ねる。

「いやぁ〜崖から友達が落っこちちゃって、探してるんです〜!」
アルベが慌てながらそう答える。

「・・・崖?この辺は水の流れも速いし崖の高さも類を見ない。落ちたらまず助からない。」

ズバッとそう言われたアルベは言葉を失う。

「それよりお前たち、イピの者か?」

突然そう尋ねられたので、ローザがこう答えた。

「あなたこそ、イピの人?」

洞窟の主は黙している。
しばらくしてまた、声が聞こえてきた。

「お前たち、魔力を持っているだろ。しかしヌソン族ではない。
ヌソン族ならばもっと小柄で背が低い。肌も浅黒い。
お前たちは何者だ?北方民族の混血種か?」


そう訊かれて答えに詰まる天使たち。

「・・・どちらにせよ、ここへ近づくことは許さない。この洞窟の存在を他言することもだ。
もしそれを破ればお前たちには死が用意されている。」

「ねえ、じゃあ、せめて教えてよ
崖から誰か落ちたりしたの見かけなかった?
あとイピへの行き方とか知らないー?」

「・・・・イピだと・・・?」

アルベの問いに洞窟の主の声色が変わった。

しばらく声が途絶えたかと思うと、洞窟の中からフードを被った人物が現れた。

「お前たち、イピへ行くのか?何のために。」

フードの人物の鋭い目がこちらを見ている。

「・・・え?えーーーとぉ・・・」
アルベがちらっとダンテの方を見る。

「王都の知り合いに会うためだ。ロンバヌは最近住みにくくてな。」
ダンテがそう答えた。

フードの人物はしばらく黙していた。

・・・が、しばらくして、フードをとった。

フードの中からは女性とおぼしき姿が現れた。

肌は赤みがかり、背はダンテたちとさほど変わらない。
彼女の言っていたヌソン族の特徴は見受けられなかった。

「イピへ行くのなら同行させてはくれないか?」

その女性は、顔こそ女性らしいものの、声はとても低く、男性とも区別が付かない。

りんごの世界小辞典があれば何の種族かわかったかもしれない。

「おねーさん、ヌソン族じゃないね〜?」
「私は見ての通り、オンズトパスの少数種族だ。」
「オンズ・・・?」
聞いたこともないワードでアルベが混乱している。

「オンズトパスだよ、一時虐殺されたが、今はまたもてはやされてる。なにせヌソン族より魔術に秀でてるからな。」

「えー!!お姉さん、ヌソンのヒトよりすごいんだー?」
アルベがその言葉に食いつく。

「あの、その魔術でソッテとりんごを探してはくれないかしら・・?」

「ソッテとりんご・・?ああ君たちの連れか。・・・まあ期待はしない方がいいが、探すのは容易い。

・・それよりも聞きたいのだが、どうやって国境を抜けるんだ?」

場が一瞬静まり返った。

特に策など無かったからだ。

「まさか、この戦時中に、無策でイピへ渡ろうとしていたのか?」

天使たちは顔を見合わせて黙っていた。

「国境を越えるのってそんなにタイヘン?」
アルベが女に尋ねた。

間の抜けた質問に、女は溜息をこぼす。

「魔力がそれなりに強いから、てっきりイピから来た精鋭部隊かと思ったが、私の勘違いか。
それにオンズトパスを知らんとは、どこの田舎者だ?」


天使たちは苦笑いしたまま黙っている。

「おねーさん国境付近詳しいならいろいろ教えてよー、お姉さんもイピに行きたいなら力になれると思うんだ。」
アルベが潤んだ目で見上げてみる。

その潤んだ目を颯爽と無視し、女は続けた。
「まあ、まずは君たちの連れを探そうか。魔術を行使するための準備を手伝ってくれ。」

ダンテたちは女に言われて材料を集め、模様を描いた。

決められた位置に石を配置していく。

「よし、少し下がっていてくれ。」

女が何かをぶつぶつと唱えると、しばらくして空気が変わった。

天使たちは何が起きているのか全くわからない。

女がゆっくり目を開くと、瞳の色が赤茶色から緑へと変わっていた。

女はりんごたちが落下した崖の方を見て何かをぶつぶつと唱え続けている。


しばらくして独特の張りつめた空気が解けた。

それと共に、女が儀式を終了したようだった。

女はゆっくりと長い息を口から吐く。

天使たちはその緊張した雰囲気の中、しばらく女に話しかけられずにいた。


沈黙が続いた後、女がゆっくりと目を開き、天使たちを見た。

女の瞳はいつもの赤茶色に戻っていた。


「君たちの連れはここにはいないようだ。生死のほどはわからなかった。」

女はそう告げた。

落胆するアルベとローザ。そして少しだけ安堵するダンテ。

一行は女と共に、川を下ることになった。

「お姉さんは、イピのヒトじゃないの?」
「お前たちはロンバヌの住人か?」

質問を質問で返された。まだ警戒が拭えないようだ。
「俺たちはロンバヌの端から来た田舎者だ。お前はロンバヌ人じゃないのか?」
ダンテが淡々とそう答える。
「・・・まぁ、そうだね、私もいろいろあってね。」
女は言葉を濁した。

この件についてはそれ以上話が進まなかったので、アルベが別の話題を振った。

「この木材で簡易ボートを作って川下まで一気に行けば国境付近に出られるんだよね?」

「そんなに簡単じゃない。今は戦時中だから、国境には兵士がうじゃうじゃいるはずだ。
ロンバヌとイピは表面上停戦協定が結ばれているが、そんなものはいつ破られてもおかしくない。」

「ううーー、めんどくさいなぁ、一気にイピまで行けないのかな、転送魔法とかで。」
「その前に、川を下りつつりんごたちを探さないと!」
ローザが横から言葉を挟んだ。
「モチロンその後の話だってー」

「・・・つかぬことを聞くが、転送魔法とは何だ?」
女の問いに、天使たちがまた黙ってしまった。
天使たちが多用している転送魔法だが、人の身の今は転送魔法など魔力が大量に必要すぎて使えない。

そもそもこの世界には転送魔法という概念がないのかもしれない。


「えーっと、なんかぴゅーーっと魔法でイピまで飛べたら楽だなぁ〜なんて。」
アルベが言葉を濁しながら話す。
「飛ぶ?空を飛ぶ魔法か?古代の伝説の話か?」

女の言葉に、また顔を見合わす天使たち。

「半ば嘘くさいあの神話めいた伝説だろ。
かつてオンズトパスが世界の中心だった頃には飛行魔法も存在したというな。
いや、お前たちオンズトパスも知らない田舎者なのに、伝説の話は知っているのか?」

「・・いやぁ〜そういう魔法を小耳に挟んだことがあったっていうか?」
アルベが適当に口ぐらを合わせる。

「まあ、オンズトパスの作り上げた高度な魔法文明も崩壊し、奴隷だった地上の民の反乱でオンズトパスは今や少数種族だ。
昔いくら絶大な栄華を誇っても落ちぶれるのは一瞬だな。」

女は皮肉めいた口調でそう言った。

天使たちは伝説の話も空を飛ぶ魔法の話もまったく何も知らないので黙って女の話を聞いていた。


「ああ、そこの木材はこっちにつけてくれ。」
女の指示で小型ボートが出来上がっていく。

ダンテ、ローザ、アルベ、ヴァイオレット、そして女の5人が辛うじて乗れる狭さだ。

「そういえばおねーさんの名前、なに?」
アルベがふいにそう尋ねると、
女は少し躊躇いながら、間を空けてこう答えた。

「んん・・そうだな、ネペ、とでも呼んでくれ。」

「ネペ!うん名前があると呼びやす〜い」
天使たちも改めてネペと名乗った女に名前を告げた。

「そうか、アルベ・・・に、そっちがローザ、うん、覚えておくよ。」

ネペは一番多く話しかけてくれたアルベの名を最初に覚えてくれたが、
ダンテとヴァイオレットについては何度か名前を失念した。


一行は小型ボートを完成させ、川を下っていく。

ネペの先導のもと、洞窟のあった地点からボートに使う材料を集めながら山を下っていき、
ある程度川の流れが穏やかになったところでボートを拵えた。

ネペが言うには、川の上流は流れがあまりに急すぎるうえ、大きな岩がそこかしこにあり、ボートが破損する危険が高いのだという。

一行は川に浮かべたボートに乗り、ネペとダンテがパドルを持った。

「いいか?ここでもまだ激流だから、私の指示があれば素早く棒を動かして岩を避けるんだ。」

ダンテが黙って頷く。

アルベは暇そうにボートから身を乗り出して川底の魚を眺めている。
ローザは少し緊張気味だ。


「アルベ・・だったな。川に落ちても知らないぞ。」
ネペが一応注意した。

アルベは一瞬身を引っ込めたものの、またしばらくすると、退屈して川にちょっかいを出している。

「・・・よし、ロープを切り離すぞ。」
ネペがボートを岸につなぎ止めていたロープをゆっくり解いた。

そしてボートが動き出す。

「えああっっ!!?」
アルベの変な奇声とともに、ボートがものすごいスピードで川を下り始めた。



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