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[8]狂想ドデカフォニー(page14)

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狂想ドデカフォニー 《もくじ》
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「・・・か、かゆい!」

しばらくしてアルベが耐えきれずに身じろぎしている。

どうやら長いこと草むらの中にいて、何かに刺されたらしかった。


「もう、動きましょ。」
ローザが提案する。


さすがに辺りも真っ暗で、今度は兵士よりも獣の心配をしなければならない。


「・・・生きる、って、大変なのね。天使でいるときは何もわからなかったわ。」

ローザがそう呟いた。

辺りはしんと静まり返っている。
兵士の声も鎧の音もとりあえずは聞こえてこない。

天使たち一行は身を起こし、どこか野営出来る場所を探した。



皆疲れ果てて始終無言だった。

何時間か歩いた末、ようやく野営できそうな少し広めの空間を見つけた。


「俺が見張る。お前たちは今のうちに休め。」
ダンテが少し枯れたような声で言った。

ダンテだけに見張りをさせるのは気が引けたものの、あまりの疲れとストレスのため、誰も何も言わずそこで休んだ。

ここまで逃げてくる途中、ローザが何度も引き返そうと提案した。

だがダンテは断固としてそれを拒否した。

もし引き返して兵士に見つかりでもすれば、それこそ全員が捕まってしまう。


ダンテはその時からある種の十字架を背負っているように見えた。

口では何も語らないが、何か一人で無理をする傾向が出てきていた。


何もかもの責任を、自分一人が持つ。
そうすることで、今までの失態の償いをしようとしているのかもしれない。



天使たちは無事、朝を迎えられた。

しかし一行に活気が戻ることはなかった。

皆口数が少なく、黙々と朝ご飯の支度を始めた。

ある者が木の実などを探しに行き、別の者が水や火、器の準備をする。

この世界に来て何度もこれをやっているため、皆手際が良くなってきた。

一行は火を取り囲んでいつものように朝食を取り始めた。

「最近、木の実ばっかだね。」
アルベがぽつんと呟く。


ローザが同情するようにアルベの方を見る。

ヴァイオレットは黙々とスープだけを見つめて食べている。
ダンテも同様だ。


「アルベが早く森を出たいなんて言ったから・・」
「さっさと食べてしまえ、またいつ兵士が来るかわからんぞ。」
自分を責め続けるアルベの言動をダンテが制止する。


「私、やっぱり戻って・・・」
ローザがそう言いかけるや否や、またダンテが言動を止めた。

そんなダンテたちを後目にヴァイオレットは黙々とスープを食べ続けている。



「スープなんて食べる気分になれない。」
「無理矢理にでもつっこめ。次何時食べられるかわからないんだ。」
落ち込むアルベに厳しい言葉で返すダンテ。


こんな風に朝食の時間は、皆始終暗い雰囲気だった。


それを裂いたのは草の音だった。

突然ガサッと草の擦れる音がしたため、一行はサッと押し黙り音の主を探した。


しばらく静まり返ったその後、
草むらから足の長い男が出てきた。

継ぎ接ぎのズボン、木綿の鞄。尖った帽子。

見たところ、旅人だろうか。

薄汚れていて、見かけ通りの異臭がほんのり男から発せられている。


「あっっりゃ。俺の秘密基地に何か用かい?」

男が話しかけてきた。

天使たちは互いに顔を見合わせる。

まさかこんな深い森で兵士以外の人と出会うとは思ってもいなかったからだ。


「森の外に出るにはどっちへ行けばいいのか教えてくれないか?」
ダンテが男に尋ねた。

「もしかして迷い人さんたち?えーっと森の外ね、こっちの道をいけば8艮弱かな。」

8艮・・すなわち1時間ちょっとだ。


「あのっ・・」
アルベが躊躇しながら口を開いた。


「・・・んん?」

「崖に落ちても、助かる方法ある?」


「崖?この森の崖のことかな?・・・もしかして誰か落ちたの?
・・・ウーーン、どうだろうなぁ。あそこ絶壁だしあんま人近寄らないからね。
崖から落ちて助かったって話も聞いたことないしなぁ。」


それを聞いて、アルベが再び黙ってしまう。



「あ、ごめんよごめん!ダメもとで谷底を捜索してみるとか、崖の植物に捕まって助かってる可能性だって無きにしもあらずだからね?」


「・・・そ、そうかも!」
アルベの顔がぱーっと明るくなる。

そんなアルベをダンテが横で黙って見ている。


「谷底に降りるにはどうしたらいーい?」
アルベが再び質問した。

「んーーー、そうだねー、ホウス川を上っていけば谷底に出られるかな?」

「ホウス川?」

「ロンバヌとイピの国境にもなってるあの川だよー。まあ川の上流に行くのも一苦労だと思うけどねー。」

男は土に図を描いてこの近辺の土地を説明してくれた。

男と別れてから、天使たちは谷底へいくかイピへいくかの選択に迫られた。

男の話では谷底へいくのも一苦労みたいだ。

ローザとアルベが谷底へ向かうことに賛成し、ヴァイオレットはどちらでもない。

ダンテは悩んでいた。

最悪の結果が待っていたら、俺は一体どうすればいい?

俺は何を優先すべきなんだ?

結局、ローザとアルベの強い意志もあり、谷底へ行くことが決定した。


男によると、今ダンテたちがいる場所は谷底よりもだいぶ高度が高い場所らしく、まずは山を下りていくのが安全だという。

山を下り、谷底との差が縮まった地点で谷底に降りていくということだ。
そのための順路も男から聞いた。

ただ谷底付近に人の歩ける道があるのかは不明で、川の上流に行けば行くほど流れも速いため、りんごたちが落ちた崖の底まで辿り着けるかどうかは全く持ってわからない。


そもそも谷底に川が流れていたのなら、りんごたちは川に流されて下流に行ってしまったかもしれないし、落ちる途中で何か植物や岩に阻害されて谷底まで到達していない可能性だってある。


この捜索はかなり無謀だとダンテも感じていた。

だが一方で、ローザやアルベの反対の中、捜索をしないままイピへ向かうことを断行するというのは困難に思えた。

まして最悪の結果になっている様を目撃してしまったら、天使たち一行の精神的ショックはいかばかりだろうかと、
そう考えると、あまり捜索に乗り気にはなれないダンテだった。


ダンテは嘗ていくつかの戦いの最前線に参加してきた。
そしてあまりの惨たらしい現実を目の当たりにした天使たちが自身の光を失っていく様を何度も目撃したことがあった。

天使が天使でいるためには、何より希望と、光がなくてはいけない。

絶望や死は天使にとって存在を脅かす猛毒でしかない。

絶望的な現実によって天使たちが悪魔に浸食され、堕天したり、悪魔の餌食になったり殺されたりする様を嫌と言うほど見た。


ダンテはローザとアルベのわずかな希望が絶望に変わるところを見たくはなかった。

無垢な子供のようにわずかな希望を抱いて、その後待ち受けるかもしれない厳しい現実の可能性は考えない。

そういう意味で、この2人はあまりに純粋だとダンテは思った。


だからといって、2人を止めることも出来ず、ダンテは迷いながらも進むことしか出来なかった。





数時間歩いて、谷の底に続いていると思われるホウス川が見えてきた。

一行はホウス川付近まで降り、川に沿って川上へ進んだ。

最初は足場が十分にあったのに、川上へ進むにつれて、急峻な崖が現れはじめ、それに伴って足場も無くなっていく。


また川の流れも速いので流れに逆らって川上へ進むことも困難だ。


一行は行き詰まった。



「とにかく夜までには探し出さないと!」
アルベはいつになく真剣だ。

「・・・しかし、足場がないな。」

「あのツルの橋を架けたところも急峻な崖だったものね・・。」


「あ、でも崖の中腹にちょっと歩けそうな段差あるよ。」
「・・・まさか、あれを行くのか?」

ダンテは戸惑ったが、ほかに歩けそうな場所もないので、一旦引き返し、崖の中腹に辿り着けそうな道を探した。

途中、少し人の手が入った小道を見つけそこを辿っていると、なんと崖の中腹に出られた。

崖の中腹はお世辞にも足場が良いとは言い難かったが、天使たちはお互いにツルで結び合って慎重に進んだ。

それからどれくらい進んだかわからないが、川の上流に行くにつれて崖の高さが一段と増し、足場も不安定になっていく。

しかし、完全に足場が無くなるということはなく、遂には崖の中腹の広い足場に出られた。

「・・・なんだここは・・?」

「この道って、誰かが使ってた道なんじゃないかしら?
じゃないとこんなにきちんと道が出来てたり、足場があったりしないもの。」

「ウーーン、ていうか、この先洞窟に繋がってるよ?」

アルベが指さした先には、小さい洞穴があった。

アルベが洞窟に入ろうとすると、何かよくわからないまま跳ね返された。

「・・・あれ・・?」

「なんだ・・?どうした?」
ダンテが近づいても、何故か洞窟の入り口まで辿り着けない。


「これって、魔法じゃなあい?」
隣で見ていたローザがそう言う。


「・・・魔法?そういえばこの世界には魔法があるという話だが、俺は今まで実際に見たことはないぞ?」

「魔法が主に使われてるのはイピだって言ってなかった?この魔力増幅のアクセサリもイピのでしょ?」
ローザが左手に着けたブレスレットを指して言う。

「なんでイピ以外では魔法が普及してないのカナー?」

「あ、それ、りんごの持ってた本に書いてあった気がするわ。
なんとかって種族が潜在的に得意なのが魔法で、ほかの種族だとうまく使えなかった・・んじゃなかったかしら?」
ローザが記憶を辿りながらアルベの疑問に答える。

「・・・本か、あの本はりんごが所持していたからな。幸いコンパスと地図は俺が持っていたが。」

ダンテの一言で、場が暗い雰囲気に包まれる。

それを払拭するように、アルベが再び発言した。

「ね!この洞窟入ってみよーよ!」
「・・・は?どうやってだ?俺たちは天使の魔法は多少使えても、この世界の魔法には詳しくないんだぞ?」

「なんとかなるよーー」
そういってアルベは洞窟の入り口付近を調べ始めた。

規則的に配置された石、謎の彫刻、壁に描かれた何かの模様、怪しいものはいくつも見つかった。

「これ壊せば入れるんじゃないー?」
そう言ってアルベが右手で石に触れようとすると、ものすごい力がアルベの手に集まってきて、それは起こった。

「いだっっ!!!!!
なんかすごい力で攻撃された!!」

「そりゃあ・・・安易に陣を解けないようにするのは当たり前だろ。」
手が熱くなって右往左往するアルベをダンテが横で冷静に見て言った。


ピシッ・・

突然何かの音がしたかと思うと、植物が天使たちの足を絡めとっていた。

「・・・・何者だ?」

低く、洞窟の奥で声がした。
姿は見えない。

「か、かいぶつ〜〜〜!!!!」



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