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[8]狂想ドデカフォニー(page6)

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狂想ドデカフォニー 《もくじ》
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そこにりんごがさっと割って入り、こう小声で言った。
「必ず助けます、信じて下さい。」

彼女の真剣で意志のこもった言葉に、男たちの不信感が少しやわらいだ。

一行は再び、背筋を正し、整列していかにも兵士らしく牢屋を引き返す。


冷静さを取り戻してきたダンテはふと、近くにいた兵士にこう尋ねてみた。

「紫の髪のこのくらいの身長の人間はこの牢屋にいないのか?」

「ああ、それなら特別監獄です。」

特別監獄・・・?
この牢屋以外にも別に牢屋が・・?
・・いったいどこに?

とはいえ流石に場所まで尋ねては怪しまれてしまう。


ダンテは疑問を一旦飲み込んで、牢屋の入り口へと足を進めた。
窓もなく、じめじめしてあまり長居したくない場所だ。
歩く鎧の音だけが地味にこだまする。

ようやく入り口の鉄格子が見えてきた。
ダンテは鉄格子の内側から門番の兵士に声をかける。

門番の兵士はゆっくりと鉄格子の扉を開けてくれた。

一行は冷や汗をかきながら、扉が開くのを待った。

「ご苦労。引き続き見張りを頼む。」

ダンテが放った言葉に門番の兵士は無言だった。
その沈黙で余計に脈が上がるのを感じながら、一行は牢屋を後にした。


牢屋の近くに物置部屋があるのを見つけ、一行はその部屋で作戦を練り直すことにした。

辺りは埃だらけで、柄の折れた箒や痛んだテーブルなどが置いてある。

これならば人が来る心配もない。


部屋に入るなり、男たちが抗議の声を上げた。

「なんで助けねえんだ!俺の家族が牢屋にいたんだぞ!!約束を破る気か!?」

ダンテは左手で額を抑える。

こうなるから嫌だったんだ。
自分以外の誰かがいると、協力してくれる分には役に立つが、いちいち仲違いの危険性が孕んでいる。
目的が食い違えば優先順位も食い違う。
性格が違えば手段も食い違う。
それがいちいち争いの種となり、仲違いの種となり、目的達成を阻むのだ。
統率された軍とは違う厄介なところだ。

ダンテは何ら弁明もせず、諦めたようにそっぽを向いている。
それが余計に男たちの不信感を生む。

見かねたりんごが再び割って入った。


「城の入り口付近にいる夥しい数の兵士を見ましたか?
今は昼です、仲間や家族を救い出すには相手にする兵士の数が多すぎます。

・・・せめて夜になれば、夜勤の兵士のみになってくれるのではないでしょうか。」

それを聞いて、協力者の1人が言った。
「ああ、じゃあ夜になるまでここに隠れてりゃいい!」

「夜になったら牢屋を襲うんだな!」
別の男が言った。

そこへダンテが口を挟む。
「俺たちの仲間はあの牢屋にはいなかった。俺があの牢屋を襲う義理はないな。」

一瞬沈黙が漂った。が、すぐに別の男がこう言った。
「じゃあ、俺たちであの牢屋を襲う。お前たちは特別監獄とかを襲撃すりゃいいんじゃねえか?」

人相は性格を表す鏡というが、
その提案をした男は他の男に比べて冷静そうな顔つきをしていた。

約束が違うとひたすら抗議する面々と違い、冷静に両者の間を取り持ってくれた。


りんごは、このちょっとした違いが、将来世界を左右する人物となる可能性を秘めていることを知っていた。
大勢の人間の中にあってより聡明で冷静な部類の人間がいずれはリーダーとなり人々を指揮する人間となってきた歴史をいくつか見たことがあった。

彼女は場に翻弄されるだけの人間とは違う何かを、その男に感じた。


「だが・・・特別監獄の場所がわからん。」

ダンテの問いに、りんごは手持ちの地図を広げた。
宿屋にいた折、近くの高見台に登り外側からの城の図を描いていたのだ。

どの部屋がどこにあるかまではわからないにしても、
外側から見える城の構造だけでも作戦を立てるのには大いに役立った。

「ここに城があって、これが高見台、こちらには塔があります。」

「塔・・?そういや重罪人は幽閉塔に入れられるとか聞いたことがあるな。」

その男は傭兵を長くやっており、傭兵をやっていると兵士を伝って城や国の情報が入ってくるんだそうだ。


「政治犯もだろ。謀反の首謀者とか昔お姫様が継母殺害未遂の容疑で塔に入れられたってのもあそこじゃねえか?」


さすがに協力者が多いと情報も手に入りやすいのか、とダンテは少し感心した。


「塔か・・だが、兵士の数や警備の厳重さ、内部構造についての情報が何もないな。」

「ですが、今晩彼らが牢屋で仲間を助けるとなると、その騒ぎ以降は警備が一層厳重になってしまいます。
やるならば同時にやるのが良いのでは?」

「そうさな!お前等が塔で一騒ぎ起こしてくれりゃ、俺も家族を助けやすくなるってもんだ!」

急に乗り気になった協力者の男たち。

食糧もあまり余分に持ってきていない為、何日もここで過ごすのは大変だ。
そのうえ、気絶させた兵士が起きれば進入に気付かれ、警戒が強まってしまう。
万一に備え、気絶させた兵士が発見されないよう、また容易に目覚めないよう魔法を掛けてきて正解だった。

本当は気絶させた兵士たちをもっと人目のつかない場所に運びたかったが、近くにこのような物置部屋も見当たらず、苦肉の策で魔法を掛けた。
とはいえ所詮はまやかし。
もって半日とちょっとだろう。

時間が経てば経つほど食糧も尽き、兵士たちに気付かれやすくなる。
まして協力者の男たちが今晩牢屋を襲撃すると言うのだから、その後の天使たち救出は一層難しくなるだろう。

仕方なく、ダンテは決意することにした。
時期を待っていれば、戦争や内紛に乗じて特別監獄に進入するチャンスは出来るかもしれない。

だか、その時、天使たちが無事という保証はどこにもない。

りんごとダンテはこの時のため、いざという時のために、魔法の行使を最小限にとどめてきた。
ようやく、今までにためた力を使うときが来た。

天使による必要以上の、とりわけ歴史に関わる異世界干渉は禁じられているが、天使を助けるという目的ならば、致し方あるまい。


夜更けを待って、一行は行動を開始した。

まず、戦力的に勝っているであろうりんごとダンテが特別監獄へ行き騒ぎを起こす。
その騒ぎで警備が手薄になったのを見計らって昼間の牢獄へ協力者の男たちが家族や仲間を助け出す。

逃げる際は入り口からではなく、中庭へ抜ける水路から逃げる。
牢屋へと続く進入経路のひとつで、長年傭兵をやっていた男が知人の傭兵から聞いた情報だったが、
昼間の中庭はそれなりの数の兵士がいるためかえって危険だったのだ。


ダンテはゆっくりと物置部屋の扉を開けた。
・・・・物音ひとつしない。
かえって不気味だ。

どんなに気をつけていても、鎧の擦れ合う音が城内に響いてダンテたちの位置を知らせてしまう為、りんごが防音魔法をかけてくれる。

それでも、持続魔法は体力を消耗するため、なるべく早く目的地に着かなければならない。

ダンテとりんごは水路を伝って中庭に出て、辺りを見渡した。

大きな月のような衛星と星々が空を彩っている。

湿気の多かった地下と違い、空気が澄んで虫の音が聞こえる。

幸いにも中庭は植物などで隠れる場所が多そうだ。
兵士の数もまばらだ。

深夜まで待った甲斐があった。

辺りは静寂と平穏に包まれていた。


・・・今ならまだ引き返せる。

今なら・・・。


ダンテの心の中に、そんな考えが時折過る。

それを必死で打ち払う。

今ならば、自分だけは無事でいられる。

何事も無かったかのように逃げられる。

すべてを捨てて、すべてに無関係でいられる。



俺はまだ何もしていないし、何も関係ない。

天使たちを助ける義理もない。

そんな弱音が繰り返し、繰り返し、ダンテの頭を流れては、自らそれを振り払う。




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