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[8]狂想ドデカフォニー(page25)

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狂想ドデカフォニー 《もくじ》
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天使たちの後ろで慌てふためきだす脱獄者たち。

天使たちが安定装置にアクセスを試みている間にも、脱獄兵は次々と捕まり、
防御壁を作っていた脱獄者の数がみるみる少なくなっていく。

後方では魔力を使い果たして失神した者、深手を負っている者が怯えながら死か捕らわれるかの選択に迫られていた。

「もう袋の鼠だ!!一気に捕らえろオーーー!!!!!」
ネペの雄叫びにイピ兵たちの勢いが一斉に増した。


「ーーーはやく、はやくしないと・・・みんなっ・・・!!!!」



「あれ、見て!安定装置が輝きだして来た!!」

「起動したのか!?ついに・・・!?」

アルベとダンテが叫んだ。

四角錐を上下に重ねたようなその安定装置は、黒ずんだ色から徐々に金色へ輝き始め・・・・


「何をした!?お前ら一体何を!!?」
動揺を隠せないネペがいきり立って叫んでいる。

前線ではなおも脱獄者とイピ兵との攻防が続いていた。


シャン・・・・・。

綺麗な鈴の音のような音がして、安定装置はようやく金色に輝き始めた。

そして・・・。

ぶわっっっと辺りに大きく羽が広がる。

「きれい・・神様みたい!」
アルベが興奮している。

「あとは・・ローザ、ローザを助けないと!」
ソッテの指摘に我に返るダンテとアルベ。

「もう一踏ん張りです。安定装置にアクセスして同化します!!」
りんごの指揮のもと、ダンテたちは安定装置にアクセスを試みた。

距離が遠いが大丈夫だろうか・・・。

・・・・・4人の天使の波動が重なり合って、安定装置に向かう。

「おいーー!!もうダメだ!逃げろ!!!」
「俺・・・もう故郷には帰れねえんだな・・・」
「いっそここでみんなで自爆しよう!!」
「何言ってんだよ!!!」
天使たちの後ろで慌てふためきだす脱獄者たち。

天使たちが安定装置にアクセスを試みている間にも、脱獄兵は次々と捕まり、
防御壁を作っていた脱獄者の数がみるみる少なくなっていく。

安定装置の力で脱獄者もイピ兵も双方魔力は尽きないが、数の力で圧倒的に脱獄者側が負けていた。

後方では女性や子供が怯えながら死か捕らわれるかの選択に迫られていた。

「もう袋の鼠だ!!一気に捕らえろオーーー!!!!!」
ネペの雄叫びにイピ兵たちの勢いが一斉に増した。


「ーーーはやく、はやくしないと・・・みんなっ・・・!!!!」

祈りにも近い天使たちの波動は、遙か遠くの安定装置へ渦を巻きながら移動した。

渦は波を描き、安定措置の出す天界の波動と折り重なる。

・・・だが、安定装置は綺麗に輝いたまま、動きを見せない。

「・・・あれ?やっぱり距離がありすぎたのかな・・」
アルベが落胆の色を見せ始める。

「いいえ・・きっと、きっと。応えてくれます。
戦いを望まない全ての者の祈りに応えて!!」


「・・・・・・」

天使たちは念じ続けていた。

安定装置は黙したままだ。

「破られたーーーーー!!!!」
「捕らえろーーーーーーーオオオオオオオ!!!!!」

悲鳴と叫びが同時に木霊した。

「壁が・・破られました・・・。」
青年の顔に悲壮の色が見えた。

片っ端から脱獄者たちが惨めったらしくいたぶられていく。

「・・・どうして、・・・どうして神は、存在しないのでしょうか。」
あまりの残酷な光景に、青年は絶望の色を滲ませながら瞳をゆっくりと閉じた。

「すみません。結局ぼくは、大きな魔力があっても、誰1人守れはしませんでした。」


青年の悲しみの波動を察知したのか、カートを押していた女性もゆっくりと目を閉じた。

2人とも死を覚悟した。


ドーーーーーーーーーーン。

ゴーーーーーーーーーーーーーーーーーンン。


ドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン。


ゴーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン。


それは、神の審判が行われる鐘の音のようだった。


大きな音は、人々の時を止めた。

その場にいた1人1人から、
この世に生を受け、踏みにじられ、時に笑い、時に憤怒した人生の流れの全てが滲み出てくる。


それは、走馬燈のようだった。


沢山の人間の人生が色とりどりに空中に舞う。
多くの人の苦しみに満ちたはずの人生が、とても綺麗に輝いていた。


まるでそれは、すべてが光でできている、と言わんばかりの輝きだった。



どんな苦渋と辛酸だけの人生も、その人間から滲み出て、最後は光となって天高く吸い込まれていく。

それはとても綺麗な光景だった。




”ほら、みて、みんな光だった!この世は真っ暗闇で汚いって思ってたけど、最後はみんな光になってくよ!”

光の渦の中でアルベが囁いた。

”見ろ、あそこ、ローザだ!”

安定装置と一体化し、空に浮かぶ光の渦の一部となったダンテが遙か彼方の岩陰を指した。

ローザから光が出て、それが安定装置に向かってくる。


”ローザ!ローザの光がきたよ!!”

”・・・・あら?みんな・・・。どうしちゃったの?・・・これは一体・・・。”

ローザの光も安定装置と一体化した。

安定装置から光の振動が地上に幾重にも放たれ、
各地に散らばった安定装置の破片が共鳴して集まってくる。


大地の浄化は始まっていた。

苦しみと、悲しみの歴史。
血と死の折り重なった臭い。

でもそれは、全部光だった。

悲しみの中で人々は見いださねばならなかった。

私は、光だったのだと。


私は、もともと、光だったと。


大地は苦しみながらも優しくそれを待っていた。

人々が光を思い出してくれるその時を。
ずっとずっと、耐えながら待っていた。

どれだけ大地を踏みにじられても、森を伐採し地面を掘り起こされ、世界を根絶やしにされても、

それでも待っていた。

あなたたちが沢山の苦しみの果てに、


きっと思い出すことを。



どうすればよいのかを。

自分が誰なのかを。

何をすべきだったのかを。


ほんとうの世界はどんなに光に満ちているかを。


大地は人を愛し抜いた。
人は何度もそれを裏切り続けた。

大地はその度に滅んだ。砂漠化し、時に惑星ごと滅んだ。


それでも大地は信じていた。

それは愛の成せる技だった。


幾千年、幾億年、人々は大地の恩を仇で返し続けた。

何も気づけなかった。原始的な欲を道しるべにゾンビのようにさまよい、貪った。

それは人を殺し、惑星を殺し、さいごには自分を殺した。

己の欲で何度も自滅しておきながら、人々はまだ気づかない。

やはりまだ欲しい。上に立ちたい。何もかも欲しい。今より贅沢をしたい。

貪欲は、いま与えられている全てを無きものとみなした。

今手に入れているものを無価値同然とみなした。

そしてもっと手に入れなければとゾンビのように蠢いた。


そうして何度も文明が滅びた。

最後には彼らが彼らを自滅へと追い込んだ。


”いい加減、こんな馬鹿げた茶番は終わりにしないか”

そう誰かが囁いた。

大勢のなかのもっとも小さいものは、大切なことに気づいていた。

いつも弱者は世の真実と未来を見据えていた。

いつも強者だけが盲目に我欲のまま突っ走った。

中間層の者たちは強者たちの言うがままに踊らされていた。


こんな世界が、何万年と続いた。

天使たちは遙か上空でその光景を見てきた。

安定装置が天使たちとともに光を放って密かに姿を消した後、脱獄者たちは捕らえられた。

だが程なくしてあれだけ傍若無人に振る舞い勝ち誇っていたネペが暗殺された。

イピの迷走がはじまり、脱獄者たちは解放された。

それから64年の後イピ国は弱体化し、隣国のヤンゴンに討ち滅ぼされる。

そのヤンゴンもまた、内部分裂を繰り返し崩壊した。

145年経つと、かつて名を馳せていた大国のほとんどが、見る影なく滅びていた。


諸行無常。

どれだけの力を手に入れようと、時が変わればそれは露と消えて無くなる。

後に残ったのは争いと憎しみの負の遺産のみ。

そして徐々に人々に浸透してゆく争いの不毛さへの認識。


誰かがもう戦争はやめよう、と言い、多数の大国がそれに賛同し、小国も流れに身を任せた。

戦争のない世界が来た。

だが100年後。

人々はまた戦争を始めていた。
争いの不毛さは100年後の人類には伝わらなかった。

歴史は繰り返される。

同じことを何度も何度も繰り返す人々を、天使たちも大地も根気強く見守っていた。

たとえ自分が滅びても、それでも人々を愛し、信じ続けていた。

なんという懐の深い母性だろうか。

彼らは今か今かと、人間たちが命と世界、そして自分自身の本質に気づいてくれる時を待っている。


ダンテたちは安定装置と一体化し、天界へと帰還していた。

安定装置が振りまいた光で、ダンテたちの存在は世界からは無かったものとして扱われ、
そして世界はちょっとだけ浄化されていた。

「・・まさか治癒の羽を全部使っちゃったのかい?」
感情の読みとれぬ表情でルーミネイトがダンテたちに問うた。

「・・あ、す・・・すみません。あれがどれだけ貴重なものか認識していながら・・・。」
ダンテがおずおずと下を向いて答える。

アルベは両手を頭の後ろで組んで知らんぷりをしている。
ソッテは、薄目で苦笑いをしている。

りんごは真面目にルーミネイトを直視している。

ローザは穏やかにルーミネイトに微笑み返している。

「あの・・・・ヴァイオレットはどこに・・?」
ローザが心配そうに尋ねた。
安定装置と同化したローザが闇に染まったヴァイオレットを異世界から見つけだし、
光の繭でくるんで封印して連れ帰っていたのだ。

「安心しなさい。そやつは今緊急治療の空間で特殊浄化を受けている。」
ルーミネイトの横にいたアスタネイトがそれに答えた。


5人の天使の前には、ルーミネイト、アスタネイト、そのほかの上級天使が並んでいた。
ルーミネイトが長い睫をゆっくりと下降させて、小指を机の上でトンと鳴らして微笑んだ。


「・・・実はこれ、試験だったんだ。」



ルーミネイトは穏やかにそう言った。
それを聞いたダンテたちの顔色が一変する。

試験だって?・・・・まずい・・・。まずすぎる。

色々と言ってはならない本音ややってはいけない行動を・・・

ダンテを筆頭に天使たちの顔が一気に青ざめていく。

「ああ、心配しなくていいよ、試験内容である異世界での記憶は7つの瞬きのあと消えて無くなるからね。」


天使たちは驚きを隠せないまま、お互いの顔を確認し合っている。

今回の旅で培った経験や天使たちとの絆も、7つの瞬き後には忘れてしまうということだ。


まあ忘れたいくらい残酷な記憶も消し去ってくれるのはありがたいが。


「あの世界は過酷だから、キミたちの傷になるといけないしね・・。」

そう言ってルーミネイトは両手を重ね、ゆっくりと光を放った。

穏やかな光に包まれて、何もかもが粒となって消えてゆく。

悲しかったこと、嬉しかったこと、悔しかったこと・・・恐怖と絶望。死と殺戮。


しばらくして、気づけば皆それぞれの天界領域へ戻っていた。

ダンテとローザはりんごやソッテ、アルベのことを忘れていた。異界のことも、試験のことも、皆忘れていた。

ただ、何か大変な経験をしてきたということだけが、心の隅に残っていた。


天界はとても心地よいが、何かが足りない。
何かを助けなければ、浄化しなければ、守らなければ。
何日もの間、天使たちの心にそんな想いがこびりついて離れなかった。




安定装置は天界の特別浄化を終えた後、元の位置に戻された。
安定装置の輝きは一層力を増し、天界中に光を届ける。

天界は今日も歓喜に満ちていた。

End.


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