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[8]狂想ドデカフォニー(page13)

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狂想ドデカフォニー 《もくじ》
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気がつけばダンテは向こう側にいた。


あまりに無我夢中だったため、途中の記憶があまりない。
ただルーミネイトや天使の守りが共にあるように感じた。

いや、そう信じていた。そうすることで恐怖を和らげるしかなかった。

本当に必死だったのだ。


久々の地面を踏んで痛感したことは、ダンテの足が思った以上にガチガチに固まっていたことだ。

恐怖と緊張で筋肉が強ばっているのだろう。

膝より下の感覚があまりない。

ダンテはその場にへたり込んでいた。
しばらくその場から動くことも出来なかった。

全身の力が抜ける感覚がある。



ああ、地面のあるありがたみを、今になって痛感する。

当たり前のように存在する地面のことなんて、普段は気にもかけないのに。


ダンテはこの揺るがない頑丈な大地にこの上ない安心感を覚えていた。



ダンテが谷に背を向けたまましばらくヘたりこんでいると、突然、背中をつっつかれたような気がした。

ビクッ!と背中が反応し、さっと首だけを捻って状況を確認する。


・・うしろにはアルベがいた。

「・・・は? おまえ、いつの間に・・!」

「ダンテがヘタレてるあいだ〜♪」

アルベがちょっと嫌み混じりに答える。

ツルの強度が案外丈夫そうなので、ダンテが無事渡り終えたのを見て、飛行魔法を補助代わりに素早くダンテの後を追いかけたらしい。

アルベはダンテよりもだいぶ早いスピードで渡ってしまったようだ。

「自分の時だけ飛行魔法とはな・・。」
ダンテがいかにも不満そうに目を向ける。

「いやぁ〜ダンテさまが万一落ちた時のために力を温存しといたのだすよ〜お」

相変わらずふざけ気味の口調でアルベが弁明する。


そのとき、ツルが小さくぎしっと音を立てたので思わず谷の方を見た。

そこにはダンテとアルベに続いてゆっくりとツルを渡ってくるヴァイオレットとローザの姿があった。

この2人はダンテとアルベよりも一層慎重そうに渡っている。

ヴァイオレットとローザの後ろにはソッテやりんごが待機しているが、よくよく見ると、なにやらりんごとソッテが魔法を使っているらしい姿が窺える。

「・・・あれは・・なにをやっているんだ?」
「わからなかった〜?ソッテがツルの揺れを防いでくれて、りんごが足が滑りにくいよう保護魔法をかけ続けてくれてるの。」

「そうなのか・・・」

「それに加えてダンテさまが渡るときはローザも魔法かけてくれてたんだけどなー」

「そ・・そうだったのか・・・・。」

自分一人の力で頑張っていたつもりが、密かにほかの天使に助けてもらっていただなんて。

ダンテは少し、自分に不甲斐無さを感じた。


しばらくして、ゆっくりゆっくりと、ヴァイオレットとローザがダンテの方へ渡ってきた。

それに伴ってスペースを確保するためダンテが後ろにずれる。
ツルの終着地点で思い切りへたりこんでいたためだ。

なんとも鈍い退き方に、アルベが横で苦笑している。
仕方がない、まだ少し足の感覚が麻痺したままなのだから。

そうこうしてるうち、ヴァイオレットがツルの終着地点付近までやってきた。

それを見たダンテとヴァイオレットの目が一瞬合ってしまった。

ダンテは一瞬気まずく思ったが、ヴァイオレットはそっけなく目を逸らした。

そんな微妙な空気の一部始終を眺めていたアルベだが、そのまま何もいうことはなかった。


程なくしてローザも到着する。

向こう側でソッテが渡り始めようと準備していた。


・・・その時。


すぐ近くでキラッと光る何かが見えた。

次の瞬間、夥しい数の兵士がソッテとりんごを取り囲む。

どうやら谷付近で潜伏しており、ダンテたちが渡る姿を発見してこちらまで移動してきたようだ。

どうしても谷付近は見晴らしが良く発見されやすい。


谷を横断するのはとてもリスクの高い行動だったのだ。


りんごとソッテは瞬時に臨戦態勢をとったが後ろは崖、そして兵士の数はあまりに膨大だった。


りんごとソッテは互いに目配せすると、
ツルに飛び乗り、木に括りつけていたツルを切り落とした。


すかさず弓兵が放つ矢をりんごが防御し、ソッテの風魔法で進路を変えた。


ツルに捕まった状態のりんごとソッテはダンテのいる崖の中腹で宙ぶらりんになっていた。


りんごとソッテはロッククライミングの要領でツルを頼りに崖を登ろうとするが、傾斜角度が直角に近いうえ、足を引っかけるところも殆ど無いため、思うように登れない。

登ることに集中すると防御が疎かになって弓兵の矢を躱し切れなくなりそうになる。

崖の上にいるダンテたちもツルを引き上げてりんごとソッテを救出しようと試みるが、
向こう側から飛んでくる矢が膨大で、それを防ぐのにかかりっきりになってしまう。

しかもあろうことかダンテたちのすぐ近くで、同時に何カ所も兵士がツルの橋を架けようとしている。

それを受けて天使たちも数カ所に散らばり、橋が架かるのを阻止しようとした。


そんな混沌とした状況の中で、ひとつの矢が、
りんごたちのぶら下がったツルの上方を貫いた。

ツルの一部が切れ、りんごたちが不安定になる。

ダンテたち崖の上にいる天使は飛んでくる膨大な矢と、橋が架かるのを防ぐのに必死でその事態に誰も気づかない。


そして、その矢に続くように、何本もの矢がりんごいるのツルを貫いた。

ソッテやりんごが必死にツルを守ろうとしても、矢の量が遙かに上回っていた。


ついに、ツルは切断された。



切れたツルを最後に見て、りんごたちは谷の底へと消えていく。



アルベがとっさに飛行魔法をかけようとしたが距離が遠すぎて間に合わなかった。




天使たち皆に冷たい衝撃が走った。


呆然としかけた天使たちだったが、絶え間無く飛んでくる矢と今にも架かろうとしている橋を防ぎ続けなければならない。
思考を止める暇などなかった。


「・・・・向こうの数の方が圧倒的に多い!このままでは数で負ける!」

城を脱出するときはこうして夥しい数の兵士と正面から衝突することは無かった。
そのため辛うじて応戦することが出来た。


でも今は違った。

周到に準備された兵。夥しい数。
天使たちが魔法を駆使することが判明したからか、弓兵の数がやたらと多い。


夜間を狙い、隙をついて脱出したあの時とは何もかも違う。


こちらが負けるのは目に見えていた。


「・・逃げよう!」

アルベが皆に訴えた。


「・・・りんごとソッテは・・・」
ローザが呟く。


「・・今は逃げるしかない!もたもたしてると全員やられるぞ!」
ダンテが気迫で皆を説得した。


アルベは最後に向こう側に数カ所火のついた矢を放ち
逃げた。

湿気が多いため火は思うように燃え広がってはくれなかったが、多少の時間稼ぎにはなった。


橋が架かって兵士たちがそれを渡り終えると対処しきれなくなる。

それまでに何とか逃げ果せなければならない。


皆りんごとソッテのことが頭から離れなかったが、今はどうすることも出来なかった。



「・・・こっちだ、この入り組んだ獣道を進もう。少しは追手を撒けるだろう。」

長い丈の草をかき分けて、天使たち一行は進んでいった。


その日は日が暮れるまで走り続けた。

もう今どこにいるのかなど皆目検討もつかないが、時折コンパスの方角は確認していたため、イピに近づいていることは確かだ。

気がつけば全員無言で座り込んでいた。

体力ももう限界だったし、りんごとソッテを助けられなかったショックで誰も話す気にはなれないようだった。


周囲は背丈の高い草で覆われていて、隠れるには丁度良かったが、しょっちゅう奇妙な虫が姿を現しては天使たちを煩わせた。




「谷渡ろっていわなければよかった・・。」


アルベがぽつんと、呟いた。


辺りは暗くなりかけていた。

皆、何も言わなかった。



沈黙の中、日はゆっくりと落ちていった。



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