[8]狂想ドデカフォニー(page7)
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そんなことを繰り返しているうち、塔に辿り着いた。
石造りの頑丈そうな建物だ。
見たところ、入り口は1カ所しかなさそうだ。
正攻法で進入するしかない。
りんごは素早く入り口の2人の兵士を気絶させた。
ダンテは自身の迷いによってりんごを助ける間もなかった。
それに感づいたりんごが、大丈夫ですか?と尋ねる。
ダンテはいつもの素振りで、何ともない、と気丈に振る舞う。
りんごはしばらく黙ってから、ダンテにこう囁いた。
「すべてうまく行きます。私たちがそうするんです。」
りんごはそういって力強くまっすぐに目を見開いた。
自分一人で十分だと思ってきたダンテが、妙に元気付けられるのを感じていた。
ー信念。りんごにはそれを感じる。
ー信念か。そういえば、力の強い天使には皆信念があったな。
力の強い悪魔もそうなのだろうか。
中級天使より上になると、信念も相まってか変わり者が多いような気がする。
中級天使の最下位ランクに留まっている俺には、まだ信念というものが足りないのかもしれないな。
りんごを先頭に入り口の兵士を倒した後、
兵士の持っていた鍵を使い、塔内部への進入に成功した。
念のため、入り口の兵士の身分証も拝借しておいた。
昼間許可証を見せろと言われた教訓からである。
塔内部に入ると螺旋階段が続いており、兵士が見当たらない。
重罪人が幽閉されているにしては些か警備が手薄ではなかろうか?
ダンテは不審に思いながらも先を急いだ。
たくさんの階段を駆け上がり、足が痛くなってきた。
そんな時、少し広い空間に出た。
そこには7〜8人の兵士がいるが、なんというか、少しだらけた風だ。
こんな塔にやってくる者は少ないのだろうか。
兵士たちは少し気を抜いているようで、城の入り口の兵士の緊張感とは雲泥の差があった。
この空間の狭さで、このだらけっぷりを見たりんごは、内ポケットの包みを取り出した。
包みの中の粉に火をつけて煙を空間に行き渡らせる。
5分ほど経つと、兵士たちは眠ってしまった。
勿論りんごたちは予め防護マスクを着けている。
「この効果は何分ほどだ?」
眠った兵士を避けながらダンテがりんごに尋ねた。
「1時間ほどです。煙が持続すれば。ですが。」
「あまり煙の濃度が上がると俺たちも睡魔に勝てない。」
「はい、その前にヴァイオレットさんたちを探しましょう。」
防護マスクも完全ではない、煙の一部をりんごたちも吸い込んでしまう。
りんごはこの異世界において音や召喚に関する魔法は使えるが、煙を防御する魔法は持ち合わせていないため、
一定以上煙を吸い込む前に、天使たちを見つけなければならない。
昼間ダンテが気絶した兵士にかけた目くらましと気絶が続く魔法は、市場で買ってきた魔法道具の力を借りたもので、資源に限りがあるためあまり乱用は出来ない。
ダンテは基本的に攻撃系に属する魔法しか使えないのだ。
そのため諸処の小細工は魔法道具に頼る必要があった。
ダンテとりんごは素早く檻の中を見渡した。
昼間の牢屋と違い、人相がいっそう悪そうな人物が多い。
手足が無い者もいる。見たこともない深い傷がある者も。
ここに収監されている人間は何もかもが段違いで、ゾッとする。
収監者の気迫に押されながら、一行は牢屋の奥まで見渡してみた。
だが・・、そこにもヴァイオレットたちの姿は見当たらなかった。
「ダンテさん、見てください。上に続く階段があります!」
そう、塔にはさらに上があったのだ。
ダンテとりんごは急いで階段を上った。
やはり階段が続くとどうしても息が上がる。
兵士は毎回こんな階段を上がり下りしているのだろうか。
しばらくしてまた少し広い空間に行き着いた。
そして同じように兵士が7〜8人入り口を監視している。
この兵士たちの前の通路を通らないと上の階に行けない仕組みだ。
つまりこの兵士たちをどうにかしないと、さらに上へはいけないし、牢屋に天使たちがいるかどうかも確認出来ない。
先程使った眠り粉も、そんなに大量に所持しているわけではない。
あと何回これが続くかもわからないため、出来るだけ節約して行きたいところだが・・。
「・・・後でどんな騒動が待っているかわかりません、ここは魔法の力を温存して、眠り粉で行きますね・・」
りんごはダンテに確認し、ダンテも同意する。
りんごは兵士たちを先程と同じように眠らせ、牢屋の中を確認する。
「上の階に行くほど、収監者の人相が悪くなっている気がします・・。」
りんごがそう言いつつ、牢屋の奥まで隈なく天使を探す。
「・・・はぁ、ここにも、いません。」
「よし、次だ。」
ダンテは先頭を切り素早く次の階段へ向かった。
次の階も、その次の階にも天使はおらず、りんごの眠り粉は尽きてしまった。
両者の顔に、段々と不安の色が見え始め、口数も少なくなる・・。
まだ騒ぎは起きていないだろうが、おそらく午前3時くらいはまわった頃だ。
協力者の男たちは、計画を決行しただろうか。
いくら騒ぎが起きないからといって、3時まで悠長に待つ連中ではないだろう。
夜が明け始めると人の数が一気に増えこちらが不利になる。
どうにかして夜明けまでには天使たちを探し出さなければ。
もう後戻りは出来ない。
そこが最後の階だったようだ。
部屋も一番狭く、造りも少し違う。
妙な香の臭いもする。
入り口に兵士はいたが、数が少なかったため、いつもの気絶させる手法で乗り切れた。
・・・だが。
他の階には無かった妙な扉を開けて入った瞬間、
ガタン、
と扉が瞬時に閉まった。
そして明かりが付いたかと思うと、
そこには夥しい数の兵士が目の前にいた。
罠だ・・・!!!!
そう思うや否や、兵士が一斉に襲ってくる。
あまりの突然の事態に魔法を準備するゆとりもなかった。
数が多すぎて、必死に攻撃を防ぐのが精一杯だ。
持久戦となれば、数が少ないこちらが確実にやられる。
そのうえ兵士同士の息の合った攻撃は見事だった。
一瞬の隙も与えない。
次第にこちらのバランスが崩れてゆく。
りんごが兵士に攻撃をくらい、一瞬仰け反るのを見た兵士がりんごを捕らえにかかった瞬間、群がる兵士に僅かに隙が出来た。
ダンテはその期を逃さず爆弾を放ち、
それを時間稼ぎにして攻撃魔法を盛大に放った。、
一瞬でも良い、何か隙が出来れば勢いを逆転させるチャンスが生まれる。
攻撃魔法はダンテの唯一の取り柄だものな。
そう同僚の天使に言われて怒ったことを思い出す。
だがやっと、ダンテの能力が生かされた。
兵士たちは散り散りになり、敵戦力のほとんどが失われた。
そしてりんごが残りの兵をすべて気絶させる。
ようやく辺りに静けさが戻った。
さすがに今ので外の兵士たちに感づかれたもしれない。
ダンテとりんごは奥へと進む。
ここに居なければ、もうどこを探せばいいのか見当がつかない。
確かに天使たちを攫っていった兵士の馬の紋章は、この城にあった紋章と同じだったのだ。
きっとこの城のどこかにいるはずなのだ。
不安と焦りを抑えながら、牢屋を一つずつ、くまなく探していく。
1つ、2つ、3つ目の牢屋・・・。
一番奥。
・・・・・・いない。
どこにもいない。
ダンテは一番奥の牢屋までくまなく探してはみたものの、天使たちの姿はなかった。
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