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[9]2つが1つにもどる時(page10)

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2つが1つにもどる時 《もくじ》
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ヴァイオレットと悪魔たちの、お互いに対する不信感が募っていく。

ヴァイオレットと同行している悪魔たちの集団は、どうやら精鋭部隊のようで、多勢に無勢な状況下で襲撃を受けても、連勝を重ねていった。

そして、目の前には、戦いの最前線と思しき軍勢が、大乱闘を繰り広げていた。


「ひぇ・・・・。」
ヴァイオレットは思わず小さく声を漏らす。

それもそのはず、ヴァイオレットが儀式を行おうとしている場所は、
ヴァイオレットどころか悪魔が何匹より集まっても到底、儀式など行えそうもない場所だったからだ。


ヴァイオレットはしばらく惚けてその場に突っ立っていたが、
同行していた悪魔の集団が、特殊な任務で前線に向かうというので、思わずジルメリアに瓜二つの彼女の顔を見てしまう。

彼女は怪訝そうな顔をしたので、何か取り繕う言葉を探す。
「あの・・・ええと、・・・・」
「・・・なに?」
冷たく彼女は急かした。

「あ・・・いや・・・その。」
「わたし、行くけど。」
ヴァイオレットのまごついた態度に付き合ってられないといったように、さっと背中を向けた。
彼女の態度に慌てたヴァイオレットは必死で叫んだ。

「ぼくの知ってる悪魔に似てるんです。すごく・・。ジルメリアって悪魔に・・!」
ヴァイオレットの切迫した声を受けて、彼女は少しだけ振り向いた。

「わたしオッジ。あなたの知ってるジルなんとかじゃないわ。」
「でも・・・すごく・・・」
「じゃあね。」
ヴァイオレットが何か言いかけている途中で、オッジと名乗った悪魔はさっさと行ってしまう。
慌てて追いかけようとしたが、彼女の態度に取り付く島はなさそうで、もどかしさを抱えながらも、
去りゆく彼女の背中を見つめることしか出来なかった。

何か腑に落ちないやりきれない感情を噛み締めながら突っ立っていると、
ふと、何か背中に生暖かいものを感じ、そして声がした。

「あの子が気になるのかい」

振り返ると赤い髪をした半獣のような姿の悪魔がいた。

「ジルメリアは"神"によって抹消されたんだい。アタシの目の前でな。」

ジルメリアの名を聞いて、ヴァイオレットは思わず目の色を変えた。

「あの子は"真実"を探すのが大好きな子だった。だから・・・ヤツの目に留まっちまったでな。」

・・・・ヤツ・・・?・・・・神?

ヴァイオレットにはこの悪魔が一体何の事を言っているのか皆目検討もつかなかった。

「アタシも呪いをかけられて、もう長くはない。あの勇猛な悪魔のお蔭で命は助けてもらったがな。」

「ジルメリアは天使によって殺されたんじゃないんですか!?あのオッジとかいう悪魔はジルメリアじゃないんですか!?」

気づけばヴァイオレットは身を乗り出して両手の拳を握りしめながら目の前の悪魔に迫っていた。

「・・・・天使か・・・。まあそれも間違いじゃあないでな。
だけどね、その天使は誰の使いだったかが重要だよ。」

赤い獣の悪魔は目をほっそりさせてそう言った。

「誰の・・・使い・・・か?」

「そう、誰の使いか、・・・・。」

悪魔はそのままヴァイオレットを見つめて黙してしまった。

"神"によって抹消されたって・・・・一体・・・。
天界の上層部のことをまるで知らないヴァイオレットには、
神とか上級天使とか天使の精鋭部隊からは縁遠かった。

天界の秩序、権力、命令指揮系統。その真実が、構造が一体どうなっているかなど、彼には知る由もない。

困惑するヴァイオレットの様子を見かねて、悪魔はこう加えた。

「アレはジルメリアの残り香さ。ジルメリアとは別物だけどね。」
「残り香・・・?」
悪魔は飛び去っていったオッジの方を見てそう言った。

「悪魔も天使も、生死を旅するときに一部が分離してべつのものになることがある。
ジルメリアは消滅の際、ヤツの一部のエネルギーが他の力と融合して、あのオッジという悪魔が生まれた。・・よくあることだいね。」

「・・・じゃあ、あれは・・・・ジルメリアじゃないんですね・・・ほんとに。」

なんとも言えぬほどの悲しそうな目をして、ヴァイオレットはオッジの飛び去った方を見つめていた。

「たとえ消えてもエネルギーはどこかで残る、誰かの命の源となるでな。
ジルメリアとて同じよ、誰かの命となって、ああやって生き続けとるでよ。」

「・・・・・・・・・・・・。」

半獣の悪魔が労いの言葉をかけて去っていった後も、 ヴァイオレットはやりきれない思いで独り虚空を眺め続けているしかなかった。

ジルメリアはヴァイオレットにとって、数少ない自分のことを出せる悪魔だった。
彼女は悪魔特有の冷たさを持ってはいたが、ヴァイオレットに関心を寄せてくれる彼女が、ヴァイオレットにとっては貴重な存在だった。
彼女にたくさんのことを教えてもらった。
彼女のお蔭でたくさんのことに気づけた。
彼女がたくさんの世の中の有り様を見せてくれた。
ときに彼女のその直言居士な言葉に深く傷ついたこともあった。
だけど、間違いなく彼女は、ヴァイオレットにとって心の灯火だったんだ。


「見つけた。・・・探したわよ。」

唐突に、あらぬところから声がしたので、ヴァイオレットは驚きのあまり、一瞬息が止まる。
気づけばさっきとは別の悪魔が妙な緊張感を纏ってぼくの方へやって来ていた。
そこには、魔界の日没を思わせるような青くうねった髪を持つ悪魔ネボラがいた。
少女の姿をした悪魔ネボラはいつものネグリジェのような服を着て立っていた。

「遅かったわ。もう何もかも。」



「・・・何も、かも?」
ネボラの言う不吉なことばに、ヴァイオレットは違和感を覚えた。

「そうよ、ついてきなさい。」

ヴァイオレットは困惑しながらも、ネボラに言われるがまま、彼女についていく。

何匹もの慌ただしく動き回る悪魔を避けながら、左手にある手前から3つ目の、古びた建物に案内された。

魔界自体、ある意味でゴミ捨て場のようなところでもあったが、
案内された建物は、まさにそんな、ゴミ捨て場を象徴するような、汚らしく、淀んだ建物だった。

廃墟のような出で立ち、異臭とともに、妙な煙があちこちから出ている。
まるで腐り果てて原型を留めなくなった果物のようで、腐った果物からは妙な液体が出ている。
まさにそのような雰囲気の建物だった。

居心地の悪い通路を通り過ぎ、案内された先に、信じ難い光景が飛び込んできた。

「な・・・・なにが・・!?」

そこには、撒き散らされた天使の銀の血、原型を留めなくなった部屋、破壊し尽くされたオブジェの破片、掻き毟って抜け落ちた羽だったものの残骸・・・・。

その中央には・・・既に動かなくなった物体が、無惨な形でそこにあった。

そして、それはよく見覚えのある物体だった。

「ダ・・・ンテ??・・・ダンテじゃないの!?」

錯乱を覚えた甲高い悲鳴にも似た声をあげながら、
慌てふためいて、ヴァイオレットはその物体に近づく。
目の前のわけのわからない状態に、意識がついていかなかった。


「なにが・・・どうして!?なんでこんなっっっ!!!!????」

それは悲しみと悲鳴が入り交じった上擦り声だった。

ヴァイオレットはひどく混乱しながら、その物体に触れてみたり、辺りにまき散らされた天使の血を眺めたりしていた。

「しっかり、・・・しっかり!!しっかりしてくださいダンテッッ!!!

ダンテはぼくより強くて、気高くて、いつも、いつもぼくより・・・ぼくより・・・!!!!


なんでこんなことに?なんでっ・・どうして・・・!!」



錯乱しながら動かなくなった物体を揺するヴァイオレット。


思えばダンテからはヒドい扱いを受け続けてきた。
疎まれ続け、いなくなってくれればいいとも言われた。

それなのに何故、なぜ、なぜ・・・?


なぜこんなに気が動転しているんだ。


ぼくはどうしてこんな悲痛さを覚えているんだっ・・・!



そこには両手で力一杯顔を鷲掴みにして苦しみ嘆いているヴァイオレットの姿があった。


「自分の罪に耐えられなかったの。」

横で一部始終を見ていた悪魔ネボラがぼそりと呟いた。


その一言で錯乱気味だったヴァイオレットは少し我に返る。

「もうオブリビオン解放はそこまで来ているのに、なぜあなたは思い出さないの?」

思い・・・・出さない・・・?
ぼくが何かを忘れている・・・・??

その瞬間だった、天から何かが一滴垂れてヴァイオレットに落ちるように、映像がヴァイオレットの中に浮かぶ。



「・・・・これは・・・・・」



それは遠い過去の記憶だった。

ダンテはいつも暗い顔をしていた。
トッヘルは心配そうにぼくたちを見ていた。

ぼくは、ダンテを励ましたくて、勇気づけたくて、ダンテにも光輝いてほしくて、いっぱい、たくさんのことをしてみた。

ダンテが少しでも元気になれればいいと思って。

でも・・・・。

ある時ダンテに頼まれた。

悪魔にダンテの大切なものを、奪われたと。

ホドンローグ、あの結晶は、昔ぼくがダンテにあげたもの。

とっても珍しいものだから、ダンテに見せたらダンテが欲しがって、ぼくは迷い無くダンテにあげたんだ。

でもあれは、とても強い力を秘めているから、
先日天界のゲートが不安定になったとき、あのホドンローグを奪われてしまったという話だった。

悪魔は天界の光に耐えられず、ホドンローグを奪った後すぐに退散したそうだ。

昔の天界ゲートは今と違って色々なところと繋がっていたし、
冥界近くへ行くと、そんなこともあるだろう。

ぼくは躊躇わず答えた、

「心配しないで、ダンテの為だったら、何だってするから!
元気を出して、すぐにでも、ダンテの宝物を見つけてくるから。」


それはぼくのさいごの光だった。
魔界に行って、ぼくの光は消し去られた。
魔界がこんなにも恐ろしいところだとは思ってもみなかった。
幾度と無くなぶり殺しにされる苦痛も耐え難いものだったけど、それ以上に・・・・。

悪魔は言った。

あのとき、天界と魔界の空間が繋がったことは無かった。
天界にわざわざ出向いてホドンローグを盗った悪魔などいない・・・。
お前は天使のくせに、濡れ衣を俺たちに着せて、殺す気なのかと。




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