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[9]2つが1つにもどる時(page9)

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2つが1つにもどる時 《もくじ》
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ぼくはまた、あの魔界へ向かうことになった。
半天使として。


天界が騒がしい中ぼくは今の天界の状況を把握する間もなく、魔界へと飛ばされた。

何が何やらぼくにはもうわからない。

なぜだか死刑を免れて、なぜだか今、魔界にいるのだから・・。


半天使は魔界を見渡した。
だがいつもと様子が違う。
誰も半天使のことを殺しに来ない、詰りに来ない。

半分天使のヴァイオレットが降り立ったというのに・・。
いや、今の彼は果たして半天使なのだろうか?
罪を犯し、肉体に封じられ、それでも恨みが消えず、
魔王になりかけて、なんとかそれを封じ込めた。
そこから天使に見つかって、天界で処罰される為に肉体を変化させて。

ぼくはもとの半天使のままでいられてるのかな・・・?

ヴァイオレットは・・・・羽を開こうとした。
だがやはり・・・、羽はそこにはなかった。


やっぱりそうなんだ・・・ぼくは・・・。
ぼくは半天使ですら無くなって・・・。


ただ、アスタナとルーミネイトの強い強い加護のお陰で、魔界にいても何ともないし、
2天使の強大な魔法の力によって、今のヴァイオレットでも授けられた天使の力が尽きない範囲では魔法が使えるようだった。


ーーーそれにしてもヘンだな。
ぼく、こんなに何の力もないのに。
なぜアスタナさんとルーミネイト様が直接魔界へ行かないんだろう・・。

やっぱりぼくは利用されて・・・。


――そう思った瞬間だった。


ドォーーーーーン,,,,
遠くで何かを破壊する音が聞こえた。

音の方を見ると、そこだけ空間が歪んで、周囲には多くの破壊された跡と数えきれない残骸が広がっていた。
それは、悪魔たちが大規模な戦争をしている音だった。
ここからそこそこ距離がある場所に、辺り一面悪魔たちの戦場があった。
悪魔同士が殺り合うのは日常茶飯事でも、
これだけの規模で徒党を組むことなんて滅多にない。
上級悪魔たちがわんさかいるうえ、行動や隊列が組織だっていて、背後に大物悪魔の存在がいることが安易に想像できた。



「・・・弱ったな・・。」


アスタナとルーミネイトに頼まれた魔界での仕事というのは以下のようなものだ。

まず手渡されたオルボ石の示す方向へ行き、そこに陣を作る。
そこで魔界のアウスという、人間界で言う新月の日の夜中0時みたいな特別な時間帯に儀式を行う。

それだけ言えば簡単に聞こえるが、
儀式の間、悪魔たちの妨害に遭ってはならないため、
念入りに守護魔法を敷かねばならないし、
大がかりな儀式なので、時間も体力も消耗する。

そのうえ一番厄介なことが、今、判明した。

「儀式を行う場所って・・・あの戦地のど真ん中なんじゃ・・・・。」

ヴァイオレットのイヤな予感は的中した。
オルボ石は間違いなく、戦場の中心地を指していた。



「ど・・・どうすんだよ・・・もう・・・・」


臆病風が突然、ヴァイオレットの背中を襲う。
何もなかったことにして、一旦引き返そうかと考えた。


だが・・・、

「おい・・!キサマ・・・!!」

「ひっっっ!!?」

ヴァイオレットは恐ろしさのあまり、素早く声の主と距離を取る。

「・・・ああ?・・・・羽がない、このニオイ。」

その悪魔はヴァイオレットのニオイを嗅ぎ、何か合点がいったような素振りを見せて、こう言った。

「ついてこい!奴らに見つかるなよ!!」

ヴァイオレットは状況が飲み込めず、戸惑っていると・・
悪魔たちの集団がこちらにやって来るではないか。

そしてその中にいた一匹の悪魔の姿が、ヴァイオレットの視線を捉えて離さなかった。

「・・・ジルメリ・・ア??」


ヴァイオレットは小さな声で、しかし大きな驚愕とともに言葉を発したが、相手はこちらに見向きもしない。

「よし、迎えが来たな。本陣に戻るとするか!」

さっきの悪魔がヴァイオレットについて来いという合図をして、向こうからやってきた悪魔たちの集団となにやら話をしている。
そして、その中にはジルメリアも・・・。


ヴァイオレットは声をかける勇気が出ずに、じっとジルメリアの方を見ているしかなかった。

ーーーーだってパトリはジルメリアが死んだって、・・・悪魔に殺されたって・・・。

やっぱりパトリはぼくを貶めるためにうそを・・・。


「あの・・・!」

焦る想いがヴァイオレットから少し大きめの声を発せさせた。

その必死さで、周りの悪魔が一斉にヴァイオレットの方を見る。

突然視線を一気に浴びたヴァイオレットは緊張のあまり続く言葉が出ない。

ジルメリアと思しき人物も、ヴァイオレットの方を見ている。

なのに何故だろう、この冷たい視線は。

以前のジルメリアもそれほど暖かい視線をくれたわけではなかったが、今のジルメリアの視線に、ヴァイオレットはどこか違和感を覚えた。


「あの・・・ジルメリア・・・」

押し迫る恐怖と違和感に耐えきれず、ヴァイオレットは再び言葉を発した。

悪魔たちは妙な顔をしてから、お互いを見合わせている。

「・・・ジルメリア?そんな奴・・・いたか?」
「・・・だれかと勘違いしてるんでしょ。」

悪魔たちは少しバカにしたように笑ってこちらを見ている。
ぐっと何か、小さな怒りのようなものがヴァイオレットの奥底に生まれて、そしてそれをヴァイオレットはいつものように無視した。

―――しかしどうしたものか。
ジルメリア・・・他人のそら似にしては、あまりに瓜二つだし、
それに、ぼくの目指そうとしている場所は、戦地のど真ん中。

ヴァイオレットは少し悩んでから、とりあえず彼らについていくことにしてみた。
ジルメリアに似た悪魔がいなければ、絶対に今すぐ逃げ出していたことだろう。


悪魔たちの集団は、ゲラゲラと何かを喋りながら戦地へ向かっていた。
時折ヴァイオレットがついてきているか確認をしながら。

始終だらけていて、ヒトを小馬鹿にしている、そんな集団だった。

だが、次の瞬間、

だらけていた悪魔たちが各々に瞬時に散らばった。
それはまるで忍者のような素早さだった。

そして悪魔たちがさっきまでいた場所が破壊された。
誰かが彼らに向かって攻撃を放ったのだ。

なんという危機意識の高さだろう、なんという・・切り替えの早さだろう。
これがないと、きっと魔界では生きていけない。
どんなにだらけた悪魔であっても。
・・・きっとそういうことなのだ。



さっきまでダラダラとしていた悪魔たちはまるで別人のような顔つきと身のこなしで、
次々と襲い来る敵の悪魔たちを倒していく・・。

ヴァイオレットはただ呆然とそれを眺めているしかなかった。


しかし、ビシャッ!っと、背後で怒鳴り声が飛ばされた。

ヴァイオレットが加勢もせずぼーっと突っ立っていたことに、反感の声が飛んだのだ。

むっとしたが、逆らう勇気すら持たないヴァイオレットは、しぶしぶ加勢するふりをした。

・・・なぜこんなことを・・・、ぼくはアイツらの仲間ですらないのに。
それに、ぼくを戦地に連れていってどうするつもりなのかすら聞いてない。


ヴァイオレットの中で、小さな不満が、ちょっとずつだが募っていった。

しかしその小さな軋轢を、ヴァイオレットは解消する勇気を持たない。

ヴァイオレットは集団の最後尾を、とぼとぼとついてくしかなかった。

集団の悪魔たちとの心の距離感がそのまま、実際の距離へと反映される。
悪魔たちがそれに気付き、時折荒っぽくヴァイオレットを蹴り飛ばした。

それが余計に、ヴァイオレットの不信感に繋がると言うことを、悪魔たちは理解してやっているのだろうか。



本陣に到着するまでに、何体もの悪魔と戦ったが、
ヴァイオレットと同行している悪魔たちの集団は敵側の悪魔たちと激戦を繰り広げながらも、それに勝利していった。

そして、その度に、ヴァイオレットの無能さを非難され続けた。

「コイツ、ほんとに俺たちの探してるヤツだろうな?」
「ペッ!マジ使えネェ〜〜〜〜!!!!」

ヴァイオレットと同行していた悪魔たちは本人に聞こえるように、ワザと大きな声で嫌みを言った。



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