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[7]うばわれたもの。(page1)

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うばわれたもの。 《もくじ》
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ーーーはじめそれは、ぼくを消しにきたと思った。
でも違ったんだ。最もむごたらしいことを奴らはしていった。

奴らはぼくの、いちばんだいじなものを奪っていった。
それは、ぼくの唯一の生きる意味。


希望。





大きな翼を持った者たちが、何人も、
あるとき突然あらわれた。


ぼくはひどくあわてて、おびえた。

ぼくはそれまでも、ひどく敏感だった。
風が戸を弄ぶ音でさえ、だれかがぼくを殺しに来たと思い込み、鳥を絞め殺すような妙な叫び声をあげて逃げ出した。
またある時は獣が立てた物音に、恐怖で正気を失った。
気がつけばまた・・・あの時のように、
あの恐ろしい、魔王になりかけた時のように・・。
暴れて・・・・何もかも、めちゃくちゃにしていた。

ぼくが傷だらけなのはもういいんだ。
どれだけ血が出ても、傷が痛んでも、アザが出来ても。
でも、横でずっと悲しそうにみててくれる、

ごんべえにまで危害を加えるなんて、自分が許せなかった。

でももう今のぼくはコントロールなんて・・・とっくにきかなくなってた。


悲しい・・・憎い・・・・こわい・・・のろわしい。



生まれてきたことが呪わしい。生きてることが呪わしい。


なんど誓ったって。何度、生きようと思ったって、

結局はここに堕ちてくるんだ。



たくさんの勇気を、導きを、ごんべえや、元魔王とかいう人がくれた。



でも、何も変わらないぼくを、変わりそうだって一瞬思って、またここに堕ちてきたぼくを、

力無い目で僕自身が見つめるんだ。


どうせそうだろうさ。ぼくなんて、お前なんて・・・。





ほんの少しのことで、1日に、1時間に、1分に、数秒のわずかな間にも・・・・
沢山のうんざりするほどの地獄と悪魔たちに毎秒出会って、ひきずりこまれそうになって、
こんどこそダメだって思って、

気がついたら奇跡的にぼくはここにいた。

こわくてたまらない。
誰かを殺すこと。誰かに殺されること。


たくさんの天使を、無我夢中で八つ裂きにして、
そしてどれほどの悲しみがそこで生まれて、
どれほどの天使が鬼の形相で、ぼくをおそってくるんだろう。
どれほど多くの天使が、ぼくを本気で殺したいと思っただろう。

いままでだって、実はぼくに消えて欲しいと思ってる天使は沢山いたはずだ。
でも、そんなもの比べものにならないくらいの憎悪と悲しみと嘆きと、殺意を、ぼくはすぐ後ろでいつも感じてるんだ。
きっと今にも天使が大群でぼくを殺しにくる。今にも。

・・・・地面を這うアリでさえ、ぼくを殺したいんじゃないかと思えてくる。
アリがこちらを見ると、その瞳が憎悪で発狂した目に見えてくるんだ。
かつてぼくがそうだったように。

かつてそれでぼくが多くの天使を・・・・消してしまった時のように。ぼくも同じようにされる気がする。

ぼくもいつかああやって殺される。


殺されるんだ・・・・・。



自分が悪い。ぼくがやったことじゃないか。
ぜんぶ自分が・・・・。
自分が・・・・・。
でもほんとうは・・・本当に悪いのは、
ぼくをここまでにしてしまった・・・・
・・神様、じゃないの?



毎日毎日毎日、うんざりするほどの恐怖と、発狂。
もう何がなんだか記憶も散り散りだ。
何度ぼく自身と、隣にいるごんべえを傷つけたか、もうわかりもしない。

これは悪夢なのだろうか。夢なら覚めて欲しい。
そう思うが、苦しみのあまり尖った石を左足に捻り込むと鈍い激痛が走る。

半天使だった頃とはちがう、人間くさい痛み。
ぼくは今のぼくが人間なのかどうかすらわからない。
翼も広げられないし、力の使い方も忘れてしまった。


きっと今のぼくは、人間のなり損ないなんだろう。



こんな悪夢の中の悪夢のような毎日なのに、ぼくはどうしてだか再び魔王にならずにすんでいる。

あんなものには2度となりたくない。

その強い意志だろうか、それとも、

本当はぼくの意志なんてこれっぽっちの価値もなくて、
ごんべえがあれ以来つきっきりでぼくのそばにいてくれた、
そのおかげなのかな。


ずっとかけてくれた励まし。希望に満ちた言葉。
そこからわずかにだけ見えた、愛。未来。光。



あの一瞬だけが、毎回ぼくを辛うじて人間のなり損ないにとどめてくれる。
いつなるとも知れない悪魔・・・魔王。もうあんなものにはなりたくもない。

でも、あの負の力には、もうぼくは逆らえる気力が残ってない。
再びあの負の力に囚われてしまったら、もう今度こそ、ぼくは、本当の意味で、
・・・・おしまいだ。


正気を失って、もう今のぼくに戻ってこれないほどの罪を犯して、犯して、犯して・・・・・・
そして最後には、天使に殺される。
大勢の天使を殺しながら、大勢の天使に殺されるんだ。



それくらいしか、ぼくの未来には、なにも残ってない。
そうなにも。


・・・・それなのに、どうしてごんべえは、いつも希望に満ちた力強い言葉をくれたのだろう。

どうしてこんな、ヒトカケラの価値もないぼくに・・・・ずっとついててくれたんだろう。





団子虫のようにまんまる縮こまった小さな影が、はっと小さな小屋の隅で我に返った。




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