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[6]墜地の果て(page8)

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墜地の果て 《もくじ》
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ヴァイオレットは今、信じるという言葉が大嫌いだ。


そもそも最後まで信じた末、それが裏切られ続け、どうにもならなくなって、信じることの限界が来て、魔王にまでなったのだから・・。


「そんなの信じろっていう方が無理です・・!」


「では自身を信じて下さい。他の何も信じずともよいですから、心から願う自分自身の心を信じてあげてください。」


「自分自身?」


ヴァイオレットが何よりも信じられないもの、ぼくを貶めた、運命をぐちゃぐちゃにしたのは、
神なのか何なのか、よくわからないけど、その運命よりも更に信じられないものが、


ぼく自身だ。




信じる・・・・

・・そういえば、ローザ先輩と以前こんな会話を交わした。



「ローザ先輩はどうしてそんなに強いんですか?どんな時でも諦めないでいられるんですか?」

「信じているもの。自分がやれるって。もう駄目って思ったら遠慮なく休むけど、
それでもまだ自分はやれるって自分のことを信じているから。」

「そんなの、絶望的な状況になっても信じられるものなんですか・・」

「・・・ヴァイリン。あのね、絶望は信じることをやめたってことなのよ。見捨てたってことなの。
私はそれはしないわ。八方塞がりな状況になれば、そこで同じ戦い方をするのは無意味よ。
ヴァイリンみたいに絶望的になっちゃうかも。
でもね、そういう時は、未来の自分を信じて方向転換するか、大人しく休んでいるのよ。全ては未来の自分の為よ。
下手に抗っても、戦っても駄目なの。そんなことをしてみても、逆風の中では下手に力を消耗するだけよ。
全ては未来のために、力を残しておかなくっちゃ。状況は必ず変化するものよ。
次に好転した時、機会を逃しちゃもったいないでしょ?」


「すべては未来のため・・?」

「そう。未来の自分を信じているからこそ。いま英気を養って遠慮なく休めるの。そのときが来るのを信じているから。
逆境の中でただ絶望的になって自暴自棄になるのとは違う。」

「何故・・そんなに信じ続けられるんですか・・・何の保証もないのに・・・。」

「保証はね自分が作るものなの。他の誰も保証なんてしてくれないわ。自分の信じ続けるという意志そのものが保証になるのよ。」

「・・・ぼくにはよくわかりません・・・。ローザ先輩はそうやって、何かを叶えたことがあるんですか?」

・・・そう言うと、ローザはころころと笑った。どこか含みのある微笑み。何か、叶えられたってことなんだろうか・・。

わからない・・・わからないよ。ぼくには、魔王さんの言ったことも、ごんべえの言うことも、ローザ先輩のいったことも。
まったく何もかも理解できない。ぼくには何も、信じられない。
ぼく自身が一番、・・信じるに値しない。




「あまりにもったいない。」

ごんべえの一言が、ぼくの回想をうち破った。

「・・え?」

「貴方自身が如何に偉大で力を持っているかを知っていただきたい。」

「力なんて、これっぽっちもありませんよ。」

卑屈そうにヴァイオレットはそう搾り出した。

「今まで貴方は力の使い方を自傷と暴走の方向へ向けていただけです。それをうまく使えば、貴方はとても輝ける。」

「そんなこと・・・。」

「あなたがどれだけ苦しんできたか、私はそばでずっと見ていました。あの苦しみは並大抵ではなかったはず。」

「え・・うん。それは・・」

「それが貴方が持つ強大なエネルギーなのです。貴方を魔王に貶めるほどの強大なエネルギーを、貴方が持っているのですよ?」

「・・・・・・・・・・・・。」

そういえば、同じようなことを魔王さんに言われた気がする。
ぼくには力がある?すごい負のエネルギーを持っている?
そして、それをどう使うかはぼくがぼくの意志で・・・決められる?



「楽しみましょう。より楽しみが多そうな方を探し、向かいましょう。
きっと貴方はあまりに多くの負を受けすぎてきた。貴方には楽しみや喜びが何よりも必要です。
そうして見えてくるものがあるでしょう。どうか卑屈にならず、より楽しめることを模索してください。
きっとそれが、自分を信じられることに繋がっていくでしょう。」



願い信じている限りはそれに近づける。


何故それを願うのか。何かを真に願うとき、その願いの意味がちゃんとある。
その願いを抱く自分を信じよ。その願いこそが天命である。






―――それから、たくさんの変化と困難があった。何度も死にそうになった。
恐怖やパニックにも陥ったし、腸が煮えくり返るような憎悪が復活しそうになったりもした。
たくさんの歩みと後退をぼくは経験した。
へとへとになった。もうダメだと何度も思った。
絶望がぼくの世界のすべてを支配したことも何度もあった。
もう消えたいとも思った。この世界にはやっぱり救いなんてなかったって、


何度も何度も、うんざりするくらい思った。



ぼくはぼくと世界に何度も何度も殺された。

何十回と、何千回と。何億回も、殺された。




でも、なんで、ここにいるんだろう。


なぜ、ここに、いられているんだろう。


なぜここまでぼくは、生きてこられたんだ。




絶望に支配されることは何度も何度もあったのに、魔王になる前の自分と今とでは、
小さな何かが・・違っているような気がした。



迷いと絶望の中にいるとき、元魔王の声がぼくの耳元でこだまする。






今のお前には一体何が見えている?今のお前は一体どこにいるのだね?

今のお前は、世の中の1%ほども見えてはいない。
そこにチャンスが転がっていようとも、お前は全てをすでにあきらめてしまっている。
己を自身で捨ててしまっている。
千変万化する流れの中で、常に可能性は変化し、動いているのだ。

つい先程まで光のあった場所にはもう光はあらず、そこに光が無いと察した時、
あきらめ、絶望するのではなく、他のまったく別のところから光がある場所を探らねばならない。


信じることだ。可能性がそこにあると。信じることから全ては始まる。
信じなければ、どこを探しまわっても、決して何も見つからぬだろう。



お前の空想や妄想で現実を歪めてはならんぞ。現実はどこまでも現実だ。

お前が何に反応し悲嘆し、何に喜びを覚えるのか、何で失敗し、何で成功したのかを、
よくよく、観察するがよい。
どこまでも冷静に、現実的にだ。そこに思い込みや空想があっては真実を歪めてしまうぞ。


思い込みや妄想は捨て去れ。


そうすることで、真のこの世の有り様と、己の真の姿が、
一つ一つの出来事の、ほんとうの意味が、おのずと見えてくるだろう。

霧がかった視界は次第に晴れ、今まで己が居た場所が、如何に小さな池だったかがわかるだろう。
その小さな池の中の小さな視点で、苦しんできたかがよくよく見渡せるようになろう。

真実とは何層にも重なり、渦を巻いている。最も崇高な真実は、最も広い視点の中にある。
己が見た小さく醜い己自身は、今お前がいる小さな池の中での真実でしか無い。

より広大な森へ進め。山に登り自身がいたところを見渡してみよ。

己の犯した失敗が、何故失敗だったのかがよくよくわかる時が来よう。
そしてそれがわかった時、より多くの世が見渡せるようになっておろう。



いいか、弱みは強み、マイナスはプラス。お前が半天使なのは強みでもある。
だれでもない、お前だけの、お前だけが喜ぶ生き方をしなさい。

お前を疎ましく白い目で見るのは、お前が疎ましく醜く汚れているからではない、その者達は怖いのだ。
底知れぬ未知と自分自身の弱さに対する恐れがあるのだ。
真に己に対して誇りと自信を持っているものはお前を通して自分の弱さや恐怖を見ることもない、故にお前を恐れることもないのだ。



何かを失ったら、同時に何かを得ている。
何か悲惨な出来事が起こったその真の意味と原因は、道を歩き続けなければわからない。
時に何かを捨てる勇気を持つことだ。そうすることで新たな可能性が目の前に現れる。
今持っているものを手放す勇気を持つことだ。





信じて、・・歩み続けるのだ!



時に崖から落ちようと泥に歩みを妨げられようとも。



お前はそれでも、今、生きているではないか。








―――天は高く遠く、どこまでもつづいていく。
これから歩む道のように。
いつもより少し澄んだ青を見上げて、
ヴァイオレットはきゅっと顔を引き締めた。




・・・もう一度だけ、生きてみよう。




瞳はどこか、以前よりも強さを帯びている。そんな気がした。




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