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[6]墜地の果て(page3)

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墜地の果て 《もくじ》
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彼が人間の状態で死すれば、彼は地獄の牢獄で永遠にこの状態を反芻することになる。
真に終わらない地獄が彼を苦しめ、彼が新たな地獄世界を生むことになる。
なんとこの世界は惨たらしく出来ているのだろう。
ヴァイオレットが永遠に救われることはないのだ。
彼はこの地獄の苦しみを、日々全身を八つ裂きにされるような激苦を永久に味わわされ続ける。

・・・誰によって?

・・・そう、自分自身によって。


ヴァイオレットはとうとう死んだ。死んでも消えない苦しみに絶望した。死んでも消えない自分の存在で世界中を呪った。
そして・・・・多くの惨たらしい自分の記憶を、傷つけられてきた想いを、世界中の存在に共有しようとした。
彼は苦しんだり、呪ったりしながら、世界に地獄を広げていった。
彼は、ただただ苦しかった。本当は、わかってほしかった。本当は、誰かが救って欲しかった。
ただそれだけだったと思う。本当の心はただそれだけだった。
でも罪が彼を深い深い落とし穴へと閉じ込めた。罪が彼を苦しめた。彼はもう自分が何なのかわからなくなっていた。


「だれか、この拷問の日々を終わらせてくれ。神様がいるならこのぼくを完全に抹消してくれ。
・・・仲間が欲しい。ぼくの激苦をわかってほしい。どんな苦しみなのか、痛みなのか。きっと誰にもわからない。
ぼくがどれほど傷つき、絶望し、それでも生きてきたかなんて‥…。
どんなに・・・どんなに苦しかったか・・・・。
全ての生き物にこの苦しみをわからせてやる・・・・。」

この無限のループこそが、地獄界を育んでいく。悪魔がなくならない理由。
最初に全てに絶望し、怒りと憎悪が爆発したヴァイオレットは、大きな大きな罪を犯し、その罪こそが、彼を更なる地獄へと落とし込んだ。
そしてその地獄こそが彼を悪魔へとさらに変貌させ、そして彼は更なる罪を犯さざるを得なくなっていく。
誰も救えず、誰も止めることが出来ない。
そして彼自信が一番、誰よりも苦しんでいるのだ。
それを見て喜んでいるのは悪魔どもだけだ。お仲間が増えたのだから。痛みをわかってくれる、大切なお仲間が。

彼は、彼自身の罪の意識によって、自身を縛り付けて、無限地獄へと落とし込めていってしまった。
もう誰も救うことが出来ない無限地獄。そしてあまりの苦しさにまた罪を大きくしてしまう。
憎悪が、どんどん大きくなっていく。絶望を世界へ撒き散らし拡大させる。

半天使は、大きな大きな、悪魔の子へと変貌を遂げた。

彼はもう、自分自身では到底救えないところまで、悪を、罪を、拡大させすぎていた。
抜けだそうと足掻いたって、反作用でより深いところへと落ちてしまう。そう蟻地獄のように。


―――世界はなんとむごたらしく出来ているのだろう。





非情で冷徹で理不尽。救いなんて、希望なんてどこにもないんだ。





こうして世界に、魔王が、生まれた。




魔王、ヴァイオレット。




魔王はこうして生まれていくのだ。地獄は、魔界はどんどんこうして広がっていく。
天使がどれだけ止めようとしても、癒やそうとしても、本人が拒絶すればそれは1粒たりとも届かない。
拒絶するつもりなんてなくても、絶望と深い悲しみに覆われると、その大きな負の感情が、治癒と救いの光をシャットアウトする。
魔王ヴァイオレットが誕生する過程で、多くの天使と悪魔の戦いが起こった。
天使は彼に光を送ったり、彼をなんとか消滅させようとした。でも多くの悪魔によってそれが阻まれてしまった。

神はどうして来ないのだろう。この一部始終をみてどう思っているのだろう。
神が創造主なのだとしたら、どうして神はこんな惨状をこんな世界をこんな秩序を自らの手で作ったのか。


天界の一斉攻撃が、魔界に向けて放たれた。こんな大掛かりな天使と悪魔の戦いは、2000年以降では久しぶりだった。
天使側は初期の段階の大きな魔王をなるべく早い段階で倒す必要があった。
魔王という存在が1つ生まれるだけで、それは天界にとって大きな脅威になるからだ。

うんざりする程の怒号のような戦闘でうんざりするくらいの墓場が出来上がっていった。

初代魔王はこの状況を良しとしていなかった。
彼は多くの月日をこんな中で過ごしていた。
初めは彼も暴れ狂う猛獣で、世界が破滅すれば良いと思っていたし、何度か世界を破滅させたこともあった。
その度に多くの、多すぎる血と涙と、絶望が世界に撒き散らされた。
魔界はどんどん大きくなっていったが、何度も何度も何度も・・・
うんざりするくらいこの惨状を繰り返していき、ある時彼は、何か虚しさのようなものを覚えた。
こんな世界を誰よりも望んでいたはずの彼も、多くの月日、同じようなことを繰り返してきた彼は、
いつしか今までの彼よりも視界が広くなっていた。
彼はどうして神が存在するのか、世界がどうしてこの秩序なのか、
その大きな大きな意味。想い。そしてあらゆる宇宙に存在する秩序。あらゆる存在。心。
そんなものの真の意味を、薄々分かり始めていた。

何かが彼には見えていた。何かが見え始めると怒涛に流れ繰り返されてきたこの凄惨な悲劇もとどまりを見せていった。

夜明けの時は、近づいていた。人間界にして2006年の出来事だった。


1つの魔王がようやく、たくさんの絶望と、罪と、苦しみと、憎しみと、あらゆる負の連鎖の末

・・・・・・昇華された。


それは地球では初めての出来事だった。

世界は大きく揺れ動いた。魔界中に震撼が走った。

初代魔王は大きな大きな負を背負った、大きな大きな存在だった。
彼が魔王でなくなるということは、世界中を苦しめ続けていた
大きな大きなマイナスのエネルギーが0点へと戻り、やがてプラスへと変わっていく瞬間。
それは大きな大陸が地上の人々や多くの命を引き連れて突然上昇するかの如く、多くの存在を巻き込むものとなった。
彼が魔王となった時、多くの存在を地獄へ道連れにしたのと同じようにして。
地球の状況は大きく変化を見せた。
多くのものがその大変動を目の当たりにして呆然としていた。


それはいわば、魔王が神へと昇華される大きな、誰もが信じられないような出来事だった。


あの数千年に起こった大事件によって、魔王ヴァイオレットにも一筋の光が当てられた。
魔界全体が世紀の大変動による影響を受けていた。魔界と天界のパワーバランスは逆転しつつあった。
長年不利だった天界の情勢が一気に有利に傾いた。

今でも魔界は確実に存在するが、その力は確実に、弱まりを見せている。
やがて魔界は残骸となり、亡霊のようになり、いずれは薄くなって消えていく。そう天使たちは確信していた。


しかし・・・そこから始まった魔界側の猛攻撃は凄まじいものだった。
多くの人間を巻き添えにして、実に多くの人間たちを魔界側へと引き摺り降ろした。
悪魔たちの猛攻撃によって、魔界側は一定の力を留めたまま、それ以上弱まりを見せることはなかった。
人間界に悲劇を撒き散らた一連の悪魔たちの暴挙を天界側は止めることが出来なかった。
悪魔たちの本気を、ここにきて思い知らされたのだった。

絶望の中で死んでいった多くの人間たちを、天使たちは天界側へ引き上げられないでいた。
天界側へ行くことが出来ず、天使の助けも届かない彼らは亡霊と呼ばれ、人間界に冥界を作るのだ。
そして冥界にいる死した人間たちは悪魔どもの格好の餌食となった。
悪魔にとって最も手出ししやすい存在が彼らなのだ。
悪魔は人間が死んだ、なりそこないの彼らをこき使って生きた人間たちを唆し、
悪さをさせて、そして魔界側へと引きこもうと日々奮闘している。
生きた人間たちが発する負の感情が彼らにとっては必要不可欠な力の源であり、最大級の栄養源なのだ。
殺し合いなんて最も甘いスイーツ。悪魔は人間たちが殺し合うのが大好きだ。
最も効率的に負のエネルギーを拡散出来るからだ。それによって悪魔たちは大きな力を得られる。
悪魔たちは自分たちの勢力拡大のため、魔界を少しでも人間界へと広げて侵食させていくために、時折戦争を起こさせる。
殺し合いの骨頂、それこそが戦争なのだ。それによって多くの人に最も効率的に、負の感情をばら撒ける。
肉親が死んだ時の絶望と怒りと悲しみは凄まじいもので、また戦いで生き残ったとしても、罪の意識に苦しめられる。
深すぎる傷を、全ての人間に負わせることが出来る。
そしてひとたび戦争を起こせれば、その戦いの深い深い傷跡で、
人間たちは一生を通して苦しんでくれるのだから、悪魔たちにとって戦争は最大の天界への武器である。

戦争という悪魔たちの最大の武器によって、多くの惑星が滅んでいった・・・・。
そして今また、1つの惑星が、遠くの宇宙で滅び去った。
惑星の住人は最後には疑心暗鬼に陥り、誰を信じたらいいのかわからない。完全に悪魔たちの手中に嵌っていた。
エゴの末滅んだ星も数多くあった。宗教戦争によって滅んだ星も・・・。
自分たちは、自分たちこそが正しいと信じていた。
彼らは自分と違うもの、相容れないものを、到底受け入れることが出来なかった。
心が狭くなていた。信じきっていた。思い込んでいた。それはエゴだった・・・。

遥か彼方の宇宙。遠くの宇宙でまた惑星が滅びようとしている。
住人がエゴと脅しと自分たちの戦略の為に作った大掛かりな装置が惑星中に埋め込まれていて、それが作動するのは秒読みだった。
彼らは自分たちで知らず知らずに滅びを選択していた。
自分さえ良ければいいのだ。他人など、どうなろうと知ったことか。
そんな考えが、巡り巡って自分の首を絞める事など、自分しか見えていない彼らにはまだ到底わかるはずもなかったのだ。

ゼロは走っていた。最後まで、惑星に埋め込まれた大掛かりな装置を止めようと必死に駆けずり回っていた。
色んなところをまわって、色んな住人に話を聞いた。最後に、地底深くにある機械装置の本体まで辿り着いた。
・・・でも。

星は爆発した。誰も止められなかった。ゼロが世界をまわっていた時ですらもう、全ての住人が諦めていた。
世界は滅びるんだと、住人までもが疑いなく思っていて、誰もそれを止めようとはしなかった。止められるはずもないと思っていた。

あと数秒あれば、どうにかなったのだろうか。あと数秒あれば・・・。
ゼロは宇宙を漂い、そして、ここに流れ着いた。
この地球天界、ティラ・イストーナ・セルミューネへと・・・・。

彼は救いたかった。彼の惑星を。救えなかった・・・。もうこんな悲劇は、二度と御免だった。
教訓を他の星に生かしたかった。彼は地球を手助けしようと決めたのだった。
彼は惑星の名前のリンドルのRを取り、R0、アール・ゼロと名乗った。

今、閉じていた地球の天界の扉は、僅かに開き始めている。
そこから少しずつ、外の者が出入りをしはじめていた。

そして遥か遠くから、この天界へとたどり着く者もいた。
R0も外来天界住人の一人となった。
R0は、この地球こそは滅ぼさせないという決意でいっぱいだった。

R0は他の惑星の知識や技術を携えてこちらに来ていた。
そして彼の考え方や発想は地球のものとは全く違っていた。
故に彼はこの地球天界では大変珍しく貴重な存在となった。

彼は経験豊かな先輩天使として天界で迎えられることとなった。ただし天界の組織には属さなかった。
歌天使のりんごと同じで、外部から来た者は地球天界の組織には属さない者が多いのも事実。
あくまで臨時講師や臨時的な助っ人といった立ち位置を守っていた。
しかし協力できることは惜しまないといった姿勢がR0には随所に見られ、天界で大いに活躍し信頼を得て行った。




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