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[4]天と地の迫間

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天と地の迫間 《もくじ》
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―――白い意識。無は白という色をしているのか?

―――――無。

そこには無だけが世界を覆っていた。
命が絶たれる時に、最期に通過する場所。これがそれかもしれない。
ヴァイオレットの命は終に尽き果て、彼の最期の結晶はこの白の空間の中に・・・。
これが死―――――




・・・ウォン、ウォン、ウォン。
高くて奇妙な音が、回転している。
真っ白な視界の中で、音だけが認識できるなんて。
ここは・・・何?


音は光となって、自分の意識に接触する。
・・・なにかモゾモゾと聞こえてくる。内側から?
・・・なんだろうこれ、どこの言語?

高音で回転するそれは、やがて、言語のようになり、
意識に直接語りかけてくるようだ。

意味を成さなかった言葉のようなものは、やがて、収束し始めて、理解できる言葉になっていく。

ぽつん、ぽつん・・・。

雨の降りはじめのようなリズムのそれは、やがて徐々に速度を上げて、意識の中を駆け巡り始めた。
―――自然のリズムのように柔らかで、微かで、そしてやさしい。
まるで耳元で妖精が囁いているようだ。自分は死んで自然と同化してしまったのかも。

これが宇宙の、大地の一部になるってことなのかな。
意識はゆったり漂う波のように穏やかで、とても心地よい。
先ほど感じていた激痛と悔しさなど、もう遠い昔のことで、すっかり意識からは消え失せてしまっているみたいだ。



・・ふと、青いものが自分のところへやってくるのを感じた。
なんだろうこれ。
青いものは自分の中に触れると、そこにビジョンが現れた。
青い。青い。なんだろう。・・・宝石みたいに光り輝いている。
・・・地球?そうか、これは地球なのか。でも随分と若い。赤ちゃんみたいだ。
初々しくて、その純粋無垢な青い光を宇宙に放って光り輝いている。綺麗だなぁ。
僕は本当に自然の一部になったのかもなぁ。



・・・あれ?一点だけ、ほんの一点だけ黒いものが出来てる気がする。なんだろうこれ。
・・・・黒が・・・黒いものが少しずつ、少しずつ広がり始めた。
癌みたいなものなのかな。一気に他の細胞を侵食するように、周りを侵し始めた・・。

黒い・・黒いのが広がっているよ、みんな助けたいのに助けられない。
地球の自浄作用が一生懸命あの黒いものを取り除こうとしているのに、
減っては増え、減っては増え・・・気持ち悪い。本当に癌みたいだ。なんであんなものが・・。
綺麗な星が侵され続けてる。ああっ、ついに黒いものが一定以上増えて・・・魔界が、魔界が完成した・・!
黒がどんどん侵食してる・・ものすごい・・どうしてこんなに荒れ狂う猛獣のような勢いがあるんだ・・。

獰猛で、すべてを顧みず、自分さえも顧みない、手段は選ばず、あらゆる野心のために世界中を巻き添えにする。
この黒の侵食具合は、悪魔そのものを見てるようだ。
・・ああ・・助けないと。青い地球の輝きはどんどん薄れて・・このままでは消えてしまう。
青い光が無くなって・・黒になるの? 地球がすべて、魔界に飲み込まれる?

・・・魔界!・・・・そんなのはダメ・・ダメなんだ・・・!
そんなことは絶対にさせない・・・・僕はさせたくない・・・!
僕が半分悪魔でも・・・ぼくはこれを守り抜きたい・・・!
どうかっ・・・・、どうか僕に、これを・・・、この地球を守らせて・・・!!!!



ヴァイオレットの意識の中に、彼の強い意志が蘇った瞬間・・、辺りは再び真っ白に・・!
無我夢中で魔法を唱えてみる、ここがどこで、自分が何になったのかさえもわからないが、この現実に抗いたかった。
抗うことしか、方法が見つからない。

・・とにかく僕は、自分の意志を叶えたいんだ・・!
必死の抵抗を続けていると、ふんわりしていた意識が、突然ズシッと、ものすごい鉛のような重みを帯びた。
痛い・・硬い・・・重い・・・急に何もかもの自由を奪われて、そう、磔にでもなった気分。




「・・・おはよう。」
とても低いトーンでその声は僕に放たれた。目の前には悪魔たちが大勢こちらを見つめている。
僕を食べようと狙ってる者、ニタニタ嬉しそうに薄気味悪い笑みを浮かべている者、狂気に満ちた目で見つめてくる者、様々だ。
僕はあまりの光景に、子鼠のように縮こまったが、やがて自分の身の異変に気づいた。
体は骸骨のように痩せ細って、オマケに傷だらけ。
そして一番の異変が、胸のあたりにあった。

「・・・・・大天使の紋章・・が、ない!」
見れば魔界ゲートが半開きのまま、止まっているではないか!
・・・何があったんだ・・。
悪魔たちは行き場を失って、こちらを睨んできたり、はたまた半開きのゲートを無理やり通ろうとしている。
ちょっとおもしろい光景だ。

・・・でも、どうしてこんな状況になったんだろう?
・・・・バッジ?この大天使の紋章のお陰?
でも僕の体は衰弱しきったお爺さんのようになって、立つことすら出来そうにない。
・・どうしよう、魔界ゲートが止まったのは良かったけど・・これじゃあ僕、今にも・・。
今にも悪魔たちに食べられてお終いになりそうだ・・・!!!!!
急に冷や汗が滲みだす。でもどうしようも出来ない。
今僕の自由になることといえば、手先が僅かに動かせるぐらいだ。
足はもう言うことを聞かないし、体中あちこちが痛い。痛いのを通り越して、激痛で体中が麻痺している。

・・ああ・・、せっかく僕は、人間界を守れたかもしれないのに、これで終わりなんて。
でもどうせなら、悪魔に食べられるんじゃなくて、ローザ先輩の胸の中で死にたかったな・・。
うん、いや、別に、胸ってのは変な意味じゃなくって・・・あれ、僕何自分で言い訳してるんだろ。


色んな想いが頭を駆け巡っていくが、しかし、暫くしてあることに気づく。
「・・・あれ?」
・・・悪魔たちが静止してこちらを睨みつけたまま、一向に襲ってくる様子が無いのだ。
相変わらず一部の悪魔たちは半開きの魔界ゲートを通ろうと必死だが。
よく見ると、悪魔の群れの中から、何かが蠢いている・・ような気がする。
悪魔の群れ・・・から魔王でも現れるというのか?
ヴァイオレットは恐ろしい想像をしながら体をこわばらせた。
悪魔たちはちょっとずつ横に退き、なにか動く者の体の一部が見える。
黒・・?・・否。これは・・。

「・・・・人間?」
悪魔の群れから現れたのは、なんと人間らしき人物だった。
想像と遥かに違った姿を見て、唖然とするヴァイオ。
その人間らしき人物は、こちらを見て、ふっと首を傾け笑顔を見せた。
やや痩せてはいるが・・見た目からして男だろうか。
悪魔たちはその男を見ても、取り込もうとも食べようとも殺そうともしていない様子だ。

・・いったい何が・・。
もしかして、もしかすると、僕は一旦死んで、で、ここは夢のなかとか・・・。
それにしてはリアル過ぎるような・・。
この独特の神経の痛みも夢なんかでは感じられない・・はず。
・・やっぱりここは現実??


そんなことを考えていると、男はなんと、生身の体で魔界ゲートを通ろうとし始めた。
男はするりと半開きの魔界ゲートをいとも簡単に抜けて、半開きの魔界ゲートは幾分か状態が安定したように見えた。
男が魔界ゲートの中に入ると、悪魔たちが次々と魔界ゲートに入っていくではないか。
通ることが困難だったはずの半開きの魔界ゲート、それがどうしてだか通れるようになっているみたいだ。
大勢の悪魔たちが勢い良く、まるで魔界ゲートに吸い込まれるようなスピードで、次々とゲートの中に入っていく。
そういえば幸い、魔界ゲートから出ていた悪臭と異質な物質が飛び出さなくなっている。
・・なんだろう、僕の意識が真っ白になった間に、何が起こったって言うんだろう。
でも大天使の紋章は消えているから、きっと僕が・・・ううん、僕なんかの力じゃなくて・・この紋章が止めてくれたんだきっと。
結局僕自身の力ではなんにも出来なかったけど、でもひとつだけ大切なことは、僕は自分の意志を叶えられたってことなんだ。
僕の最期の意志が無碍にされることなく、世界は、この紋章は、僕の意志を叶えてくれたんだ。
・・もう、それだけで良い気がする。もうこれ以上自分を責めるのはよそう。いつかもっと強くなれたのなら。
大天使のように、強い力を持てたのなら、僕は自分の力で、自分の意志を叶えられるように、なるかもしれない。

・・と、その時、男がひょっこり魔界ゲートから顔を出した。
気づけば辺り一面を覆い尽くしていた大量の悪魔が居なくなっている。
もうこんなに早く、悪魔たちは魔界ゲートをくぐったのだろうか。
悪魔たちの素早さと要領の良さだけは見習いたいものである。

「魔界ゲート、くぐります?」
男はどうやらヴァイオレットの方に話しかけているようだ。
「え?あ、は、はい、でも・・」
・・魔界に行きたい、でも足が・・体中がもう既にひどい損傷で悲鳴を上げている。
足もぴくりとも動かないし、そもそも感覚がもう無いのだ。
男はそれを察してか、こちらに突然やってきて、体の状況を観察している。
ひと通りヴァイオレットの体を眺め終わると、ひょいっと、ヴァイオレットを抱え上げた。
「痛くないですか?」
「え・・、あ、はい。」
思いもよらぬ行動に狼狽えるヴァイオレット。
男は構わずヴァイオレットを抱き抱えたまま魔界ゲートに歩いて行く。
人間界のかの有名なお姫様抱っことかいうものを、まさか坊主にしてもらえるとは思いもしなかった。

「あ、あの!僕ですね、魔界には行きたいんですけど、そのっ、もう大天使の紋章も無くなっちゃって・・えっと・・」
慌てると口ごもってしまう。ヴァイオレットの癖の一つである。
男は歩みを止めて、優しくじっとヴァイオレットの話に聞き入っている。とても落ち着いた様子だ。
「えっと・・だから、えっと、・・今魔界に行っても自分の体を守れないっていうか・・悪魔にやられちゃうんです。どうしたら・・」
どうしたら・・いいか?そんなもの人間に聞いてどうするんだろう。でもどうしたら・・いいんだ。
優しく見つめて黙っていた男は、ゆっくりとヴァイオレットを地面に下ろして、口を開いた。

「私と一緒にいきましょう。治癒能力の残った悪魔がきっとあなたを治療してくれます。」
ぽかーーん。まさに僕はそんな表情をしていただろう。
悪魔が治療をしてくれる?そんな話聞いたこともない。
実際、僕は幾度と無く魔界に赴いたが、殺されかけても、治療されたことなんてあっただろうか?
そもそも悪魔は誰かを治療する魔法など持っていないのだと思っていた。悪魔が誰かを治療する様子なんて見た事がない。
大きな負傷を負っても、野ざらしにされるだけだ。だれも治療なんてしてくれない。
・・でも、その、悪魔が治療?何を言っているんだろう、ふざけている?妄想にとらわれている?
どうしてこの人間はそんな可笑しなことを言うのだろうか。
ヴァイオレットはその金色の目をまんまるくして、ただ男を見上げていた。
男はにっこり微笑んで再び尋ねた。

「魔界に、一緒に行きますか?」
ヴァイオレットは思わず瞬間的に頷いてしまった。よく考えもせずに。
後で後悔したって遅いのだ。悪魔に食べられても自己責任だ。
第一この得体の知れない人間は何者なんだろうか。そもそも信用に足る人物なのか。
この人間のホラ吹きのせいで死んだって文句は言えまい。

ヴァイオレットはどうしたことか、自分の中の警戒心が目一杯警鐘を鳴らしているのを全部無視して、男に従っていた。
男は再びヴァイオレットを抱え、ゆっくりと魔界ゲートの方に歩みを進めていく。
その一歩一歩が、ゆったりとして、どこか奥ゆかしい。
彼から伝わる温和な雰囲気を感じて、どこかリラックスするヴァイオレット。
もしかしたら・・この人は、悪い人じゃないのかも・・・。
ヴァイオレットは最後にそんなことを思い、疲労困憊の中で、眠りに就いた。



眩いばかりの輝ける命たちよ。
嗚呼愛しき命たちよ。
肩を落とし時にそこに絶望する者よ。
命を投げ出そうとする者よ。
己の光を見失った者よ。
富める者、貧しき者、大きな者、小さな者。
私はあなたを誘う光でありたい。
愛する我が子、そして我が親、我が同胞たち。
あらゆる存在がその光を内に宿し、その煌めきを知らずの内に放っている。
それは調和し宇宙のメロディーとなって私達に降り注ぐ。
あなた達の存在そのものが私なのであり、私は貴方と瓜二つの鏡同士、親子、親友、兄弟。
私はあなた方のあるがままの姿が最も美しく貴いと感じる。
時に道を見失った時、絶望に明け暮れた時、私はそっとあなたの光となって道を照らしたい。
あなたの傷を癒し、私はあなたの中の曇りなき光を照らして、あなたに証明してみせよう。
私はあなたで、あなたは私。
自分自身の光を見た時、あなたはなんと思うだろう。
あなたは自分自身の存在が何なのかご存知だろうか。
あなた自身の本当の光を見たことがあるだろうか。
あなたという無二の存在を、その真の尊さを認識して欲しい。
あなたは常に自由であり、私と交じり合って存在する。
私はただただ世界を見えないところから照らし、命を育む光であろう。
命を輝かすエネルギーを与え続け、あらゆることを実行する活力の源となろう。
あなたが行うことは皆神の行いであり、私の行いでもあるのだ。
どうか我が愛する者よ、あなたが自分を見出し、自分の意志を遂げられるように。
自分の中から、最上の美しき至高の存在を見つけ出せるように。
時に泥沼に嵌まり込もうと、どんなに暗闇に閉ざされようと、私は刹那の瞬間もあなたのもとを離れることはない。
私は永久にあなたのそばに居て、そして光となりあなたの足元を照らし続けよう。
それは微細すぎて、あなたは気づかないかもしれない。でも私はあなたに囁き続け、光となってあなたを癒し、生かし続けよう。
嗚呼、私はあなたの源。私は光。私は命。私はあらゆるエネルギー。
私はあなたを生かしたい。あらゆる命を愛し、生かし続けよう。
愛するあなたよ、太古の昔から、時が無くなる永久まで、愛し続けているあなたよ、
どうかあなたが平和であれ、充足に満ち足りたものであれ。どんなあなたになろうとも、私は必ずそこにいて、あなたを見ている。
私はあなたを生かし続けよう、あなたのエネルギーとなり、活力となりて、あなたを生かそう。



音楽のような言葉たちが、集まって形を成しては離れ、現れては消えていく。
どこかで聞いたような言葉のリズムだ。どこだったか・・・・。
何かを・・・・思い出しそうで・・・・・・。しかし意識がハッキリとしない。
しばらくぼんやりした世界の中に漂っていた・・が、急に目の前の視界がバッと開ける。
「あっ・・・!」
目の前の人物とバチッと目が合ってしまった。思わず目を逸らして、その流れで周りの景色を把握する。
ここは・・見たこともないところだ。
ふと、先ほど目を合わせてしまった人物を見返す。
「・・お坊さん!」
「・・お坊さん?」
ヴァイオレットが思わず口走った言葉。
目の前にいたのは先程ヴァイオレットを抱き抱えて運んでくれた人間。
そして彼は坊主頭だった。
男はその言葉を聞いて、つるっ禿の頭を軽く撫でて見せ、触ってみる?とお茶目に頭をヴァイオレットの方に向ける。
最初は遠慮していたヴァイオレットも、好奇心に負けて、そのつるつる頭を触ってみる。
面白い、髪がないってこんな感じなんだ。坊主頭って面白いなぁ。・・僕の坊主頭かぁ・・・。
ふと頭の中で自分の坊主姿を想像して、イメージが全然違ったので、咄嗟に頭の中の想像を掻き消す。
そのヴァイオレットの一連の動作を坊主頭の男は目をほっそりさせて非常に愛おしそうな目でゆったりと眺めていた。
そんな男の視線に気づき、ヴァイオレットは慌てて取り繕った。

・・・恥ずかしい。どうしてこの男の人は、ぼくをこんな目で見てくるんだろう。
・・なんだか、ちょっとローザ先輩と似てるかな?ローザ先輩とルーミネイト様を混ぜあわせた感じ・・。
でも・・。
・・でもその男の人には自分の知っている天使たちとはちがう、何かがあって、
ニオイは明らかに人間っぽいのに、今まで見てきたどの人間とも天使とも、
そして悪魔とも違う何かをその男は宿しているような気がしていた。



「気分はどうだい?」
男のほうをぼうっと見つめていると、急に話しかけられる。
考え事をして何を言われたのかわからなかったので、聞き返す素振りをする。
男はニコッと微笑んで、ヴァイオレットの体を眺めている。
「・・ここが、まだ痛む?」先ほどまで酷く損傷していたはずの足を男は指さした。
「え・・・、あ。・・・・あれっ!?う、動く!!!」
鈍痛と痙攣と麻痺によってガタガタに損傷していたはずの足が、想像とは全く反対の動作をみせた。
あまりの驚きに足を勢い良く動かしすぎてかえって足を少しひねってしまった。
男が心配して足に触れようとしたので、何事も無いように元気に振る舞う。
ヴァイオレットにとって、この男は自分の恥ずかしさを増幅させる存在だった。
何故かはわからないのだが、この男と対面していると、猛烈に忸怩たる気持ちになってくるのだ。
とてつもなく自分のちっぽけさが露呈してしまうようで、それが恥ずかしい。
光りに照らされて、僕の醜い部分、悪魔の部分やひどく未熟で幼稚な部分が姿をあらわす。
僕自身でも僕の中でそんな嫌なところを強く感じるうえに、
この男の目は僕の中のそんな部分までをも見られているような、そんな目をしているから、
だから猛烈に、拒絶し、自分を何かで覆い隠したくなる。

ローザ先輩の持つ独特の何かとちょっとだけ似ている。
ローザに見られた時の視線にも、僕は非常に弱いのだ。
そんなに僕を見つめないでほしい、僕の、僕の醜い部分を見ないでほしい。
僕の中のひどく暗くて黒くて汚い部分。そこが見つかってしまったら、ここに僕の居場所は無くなってしまう。
もし、もし万が一相手がここにいていいと言ってくれたとしても、
僕は自分というあまりに情けない存在を見られた事実に、裸足で逃げ出してしまうことだろう。
だからこんな僕をどうか見ないでほしい。僕という存在は誰にも見せたくはないんだ。
そして見せられるような綺麗な存在じゃないんだ・・。
ローザ先輩とか、ルーミネイト様とか、ダンテとか・・・、みんなれっきとした天使で、曇りなく美しい。
それに比べて、いつもあらゆる天使の目から逃げ惑い、狼狽え、悲観し、悲嘆し、
そして影に隠れてまるで逃亡者のように過ごす。
それが僕っていう存在なんだ。僕は半天使だから。
僕はこの目の前の男の人とも、ほかの天使たちとも違うから。



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