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[4]天と地の迫間

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天と地の迫間(天国と地獄) 《もくじ》
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人間たちが蠢く遥か上の天界では、かつて類を見ない混乱が生じていた。
「ごきげんよう、オルフェーヌ・フェルメイです、これからあなた達への通達を担当させていただきます。」
金色の布を頭上から纏った礼儀正しいその女性らしい天使は、大混乱の中心にいた。
「どういうことですか?」「ルーミネイト様は!?」「ボージクダン様もいらっしゃいません!」
幾つもの疑問がその中央の天使にぶつけられたが、その天使は落ち着いた声色でこう答えた。
「どの大天使様もあなた方の見えないところにいらっしゃいます。狼狽なさらないで。
焦りと混乱はあなた方の聖なる光に隙を生み出してしまいます。」
フェルメイは両手の指で8つの円を作った。
彼女の前に沢山の情報が降りてくる。

「さて、何から始めましょうか。ああ、そうね、あなたは大笛の修理がまだだったわね。」
淡々と仕事をこなしていくフェルメイを前に、未だ混乱の色が隠せない天使たちが大勢いた。
フェルメイから任務を受けた帰り道、天界城の廊下で天使たちが話している。

「なんか、おかしいよね。」「オーブレット様も見当たらないって。」
「色んな大天使様が交代になったの?」「わけがわからないなぁ・・。」
口々に疑問と困惑の声が呟かれる。

「ミルネイ、ファージ、ココロト、ナリ、みんな何やってるの?」
キラキラと弾む声、桃色の柔らかい巻き髪。

「ローザ!」「ローザちゃん!」「今日もお茶会やってる?」
お茶会・・、そうローザは、いつも午後の休憩時になると、ティータイムと称しお菓子を作りお茶を天使たちに振舞っていた。
「うーん、それがねぇ、今日は誰も来なくって。あと3日前からダンテが姿を見せないんだけど、知らない?」
ローザは顔が広い。友達も多い。
そんな誰とでもフレンドリーに接することができるローザを見て、
かつてヴァイオレットはローザのことが本来の姿以上に眩しく見えたのかもしれない。

「ダンテ・・って、審判部門の天使よね。」「アウイーベゲン所属の。」
ローザは頷く。
「アウイーベゲンっていったら昔・・」
「ところでそうだ、これお裾分けね。誰も来ないから。」
アウイーベゲンの昔の話になりそうになると、すっとローザが割って入った。
可愛い小包には焼きたてのお菓子が入っているらしかった。
天使にとっては栄養満点、治癒と浄化を助けてくれること間違いなしだ。
「今日のお茶会、たったの1人も来なかったの?」
「うん・・そう、彼も、ヴァイオレットまで来なかったのよね・・。」
どうやらローザは知らないらしい。
「ヴァイオレットってあの堕天使の子でしょ?」
「堕天使じゃないわ、ただ少しだけ悪魔の源流が混じってるだけよ。」
「それを堕天使って言うんじゃないの?」
「堕天はしてないわ、彼は天界に忠実な他の天使と何も変わらない・・」
そう、傷つくココロも、繊細な魂も、なにも、なにもほかと変わらない・・・・。

ローザはそこまで言って声を詰まらせた。
彼女にとっての半天使ヴァイオレットという存在、彼は痛ましくてならなかった。
塞ぎ切って古城に何層もの壁を塗り固めて閉じこもってしまった小さなココロの天使。
そのうえ近ごろは外堀まで作って完全に外界を遮断しようとしている。

ローザには彼がそんな風に映っていた。
「ねえ、ローザ、あの子って確か・・」
天使の言葉を聞きローザの表情は一瞬にして固まる。
「今・・・・・なんて・・・・・?」
頭が真っ白で、何も聞き取れない。でももう一度確かめずにはいられない言葉。
「彼、ヴァイオレットは、人間界に追放されたって・・聞いたけど。」
「何ホントに?これで安心して天界飛びまわれるねー」「ちょっとあの子気持ち悪かった。」
天使たちが口々に本音を呟く。
唇を固く結び、ローザは何も言わなかった。
どうして追放されたのか?
何か原因でもあるのか?
どうにかして天界に連れ戻せる方法はないのか?
そもそも天界に連れ戻すことがヴァイオレットにとって幸せなのか?

「・・・ねえ、ローザぁ・・?」「ローザさん?」
「ルーミネイト様は・・!」
ふいに、いつになく厳しい口調でローザは言葉を発した。
「え、なに?」「ルーミネイト様は今・・」「・・どこだろねー?」
「行方不明?それとも特殊な任務遂行中とか?」「理由は全然わからないんだよね。」

「・・・・どういうこと?」
ローザはしばらくルーミネイト様に会っていないらしく、状況が全くつかめていないようだった。
「ルーミネイト様、例の事件から行方知れずになってる大天使の一人なんだ。」

・・・・行方知れず、ルーミネイト様が?ヴァイオレットが追放になった後に?
ローザの中で何かが繋がる。でもそれは、考えたくない想像だった。
出来れば最も起こって欲しくないことであった。
ルーミネイト様に、ヴァイオレットに、ダンテ。
3人とも行方知れずだなんて。
ま・・・・まるで・・・・あの時みたいに・・・・・。

ローザの体は小刻みに震えていた。
蒼白になったローザの様子を見て彼女を気遣う周りの天使。
「あ・・・、ごめんねっ、えっと、またなにかわかったら、教えてくれる?」
精一杯の元気と明るさを込めて、ローザは声を振り絞る。
天使たちは困惑の表情を浮かべながらも頷いた。
ローザの態度は明らかにいつもと様子が違っており、それは明らかに天使たちにも読み取れたからだ。

大丈夫、何もない。何も起こらないわ。何も・・。大丈夫。
しっかりするのよローザ!
震える両手をお互いにがっしりと握りしめ、両手で自分を励ます。
それでも小刻みに手が震えているのが伝わってくる。
とりあえず・・そう、どうしたらいいかしら。
うん・・。相談できそうなのは・・・、まずはモカよね!



モカフォトン、モカの名で親しまれる彼は、
天界では半悪魔であるヴァイオレットとつるむ珍しい天使と有名な人物である。


「イジクリクリ〜ン、ビュッとな。」


変な仮面をつけ、変な格好をし、変な機械を弄っている変な男。
「モカ、いた。あのね、ちょっといいかな?」
「ローザさ〜〜〜ん!その魅惑的な声は薔薇をも恥ずかしさのあまり
真っ赤に染めるというローザさんではあ〜りませんかっ!」

・・こんな調子のいいことを言っているのがモカである。

「あれ、珍しく女の子追いかけてないのね?何か他のことに夢中?」
ローザがひょっこと、影から機械を覗きこむ。
「ローザさん、前々から言おうと思ってたんですが・・」
「・・う〜ん、暗くてよく見えない・・何の機械?」
「あ、それ、あんま下を触るとまずいっス。」
「えぇ?」
「キャッ!ローザ姉さんに触られると機械も真っ赤っ!」
「あっ・・何か・・泥餅みたいなのが出てきたけど・・」
「なにぃっっ!!?失敗!?またもや!!?なんでっ!!?」
どうやらこの機械で何かを作っていたらしかった。だがこの際そんなことはどうでも良い。

「ね〜え、モカくん。ヴァイオっち知らない?」
「僕の最愛の天使ロー様は僕のことよりアイツがお好きだと?!ロー様っっ!!!」
「ひゃっ、もう、モカくんはもっと年上が好みだってヴァイオレットから聞いたわよー?」
「チッ!・・アイツめ何チクってやがんだよ・・」
「え、なに?小さい声だから聞こえないわ?」
「へへ、見目麗しきローザさん、僕と結婚とかしません?」

結婚・・・天界に本来結婚や恋愛などというものは希薄な概念だった。
それが近年天界と人間界の壁が薄くなりつつあるらしく、人間界の真似をする天使が増えてきているのだそうだ。
モカもその一人・・、いや彼が特殊なのだろうか。

「それ昨日も聞いたわ。天使がケッコンなんてするの?」
「聞いたところによると、人間界では男がローザ様のような美しい女性にそれはもうプロポーズしまくって
周りに大勢の妻を娶っているらしいじゃないっスか、いわゆる・・ハーレムっていうんスか?!」
鼻息を猛烈に荒くして理想を語りまくるモカ。少々・・いやかなり鬱陶しい。

「うーんと・・・あ、そうだ、これあげるから、ヴァイオレットのことなにか知ってたら教えて?」
「そ・・・・そこにあるのはまさかもしや万が一いや絶対に、ローザ様の手作りケーキ!!?」
「あ・・教えてくれたら、ね?」
モカといるといつも話が変な方向に行きまくるので、毎回こうして餌・・もとい贈り物を用意して話題を引っ張りだすのである。

「あぁ・・ケーキ!ケーキといえばこの前、双慎璧に住んでらしたそれはスンバらしぃ〜く美しいお姉さまが、
ケーキを焼いていて、あのあま〜くトロけるようなお姉さまの眼差しで見つめられたケーキが、俺の中に・・
・・・・・・・入ると良いなとか思った矢先、あり得ないことが・・いんや許し難いことが・・!」

「あの〜、モカくん、ヴァイリンのこと教えてくれないならもう戻っちゃうけど。」
「アァーーーッッ!!待ってーーー!!!ローザさぁぁん!!!
俺・・い、いや僕、僕で良かったら何でも話します。うん。・・・・・・で、何でしたっけ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
ローザが距離を置いて沈黙する。場が思い切り白けきっている。
「あ、えと、はいはいはい、思い出しました〜よ今!いやいや、もともと覚えてますって!!!
麗しき愛しのローちゃん、いやローザ様のお聞きになったことを忘〜れるわきゃ〜ないですよ!!!ははは!!」
「ヴァイオレットのこと・・」
「ああ、ヴァイオレット!あいつめローザ様の口から俺を差し置いてあいつの名前を言わせるなどなんて罪深いヤツ!」
「そうじゃなくて。」
「僕は断言しまスよ!ローザちゃんの心は僕に戻ってきます!必ずですっっ!!ホラ、僕の方が愛くるしいとか・・思いません?」
「・・・・・・あのね・・。」


こんな問答が何十回何百回と繰り返された後・・・・・
「こんなに誘っても乗ってくれないなんて・・・ローザ様ってばアイツに脅されちゃったりなんかしちゃったりしてるんスか?!」
「えっと、わたし・・どうしてここに来たんだっけ?」
「・・・・そういえばアイツ、最近見ないっスね。いつも銀の水辺の近くの崖で集まるのに。」
「え・・・・!(そ、そうだった、それを聞きたかったんだったわ!)」
「次会った時はネッテオさんを口説くの手伝ってくれるっつったのになァ〜。」
「ネッテオさん?」
「あ、なんでも無いっス!それよりですね、ローザ様っ!僕良いこと思いつきましたよ!!」
「うんじゃあ、また1年後にでも聞かせて、じゃあ☆」
「え・・・一年・・・?一年も待てと・・??僕にそれまで思慕の情をウンと募らせておけと!!!???
なんてっ・・・なんてっ・・・・、愛らしくも冷たいんだローザさんっっっっ!!!!!!!そのひんやり感が堪らねっっ!!!」

モカのところから逃げるように飛び去ったローザは、天界の空の中で考えこむ。
モカはヴァイオレットがどうなったのか、全く知らないのね。そういえば部門も所属部隊も違うものね。
きっと遊ぶときだけ一緒にいるんだわ。
・・・・・・とすると・・あとは・・・・。




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