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[1]ヴァイオレットエンジェル

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 翌日…………。

 愁と香夜を交えた五人で、買い物に出かけることになった。
 ちなみにヴァイオレットは昨日弘樹から借りた黒いTシャツを着ていた。

「何で香夜がくるんだよ」

 ふてくされた顔で弘樹が言う。弘樹は香夜が苦手だ。

「女の子の視点があったほうが、服が選びやすいでしょ」

「どうせ女の人が書いてるから意味ないんじゃ……」

 愁の意見は無視された。

 というわけで、レディースもメンズも置いてある店に入ろうということになり、
 カジュアル系の店に足を踏み入れた。

「何でレディースもあるとこにするんだよ」

 弘樹の膝の裏側を香夜が蹴った。

「いてえっ!お前のことじゃねえよ、ヴァイオっちの服を選ぶのに何でレディースもあるところに行くんだよ!

「ヴァイオレっちの体型だと、メンズの、特に人間の服はぶかぶかすぎるんじゃない?」

 ボクもそうだからね。

 愁がにっこりした。

「特にへそ出しとなると……一般のメンズにはあまり見当たらないだろうな」

 繭が言う。

「だからってレディースでもあんまり見ないわよ」

 と香夜。

「デザインが限られてるだろ、へそ出しって……」

 弘樹が水色のパンツの足を組み替えながら言う。

「ちなみにヴァイオっちはどんなのがいいの?へそ出し以外に、色とか」

「そうですね……そんなのがいいです」

 ヴァイオレットは水色の弘樹のパンツを指差した。俺?と弘樹が自分の下半身を見る。

「こんな色で、しかもへそ出し?」

 うーーーーん……。

 四人は黙り込んだ。ヴァイオレットは何故かにこにこしている。

「皆さんも似合うと思いますよ」

「へ?」

「へそ出し」

 四人は一斉に自分がへそ出しの服を着ている様を思い浮かべた。香夜が噴出した。

「し、愁はともかく……弘樹や繭はないんじゃない?」

「でも、皆さん結構そういうのが似合いそうな部類に入ると思うんですけどね……」

「あっ、一着あったぞ、へそ出し!」

 店内をうろうろしていた弘樹が声を上げた。四人はどやどやと弘樹のいるところにいった。

 弘樹が手にしていたのはオレンジ色の襟がついたへそ出しの服だった。
 ちなみにレディースの、Lだった。

「どう?ヴァイオりん」

「ヴァイオりん!?えー……と、オレンジはあまり……」

「あっそう。じゃあ見つけた人が着ることにしようか」

 愁が満面の笑みを浮かべた。弘樹がへっ?と自分の顔を指差す。

「ほらほら、ヴァイオりんが見たがってるじゃーん」

「すっごく似合うと思いますよ!」

 ヴァイオレットがきらきらの笑顔で言った。弘樹が顔を真っ赤にした。

「断る!!」

「でも弘樹、ずーーっと前のライブで、一度へそ出し着てたじゃん」

「あれは白色で、半ば無理やり着せられたんだ!!オレンジは……」

「おい、付属のネクタイがあったぞ」

 繭がにこにこした店員から小さなネクタイをもらってきた。

「着ーろ♪着ーろ♪」

 愁が手を叩きながら歌い始めた。香夜が便乗して歌い始める。

「着ーろ♪着ーろ♪」

 繭が手だけ叩き始めた。なんだなんだ、と他の客が集まってきた。
 ヴァイオレットがおろおろしていたが、愁にわき腹をつつかれてちょいちょいと手を叩き始めた。

「うっ……うっ……うわーーっ!!!」

 弘樹がさっと試着室のカーテンを閉めた。四人はわーっと盛り上がった。

「よかったねヴァイオっち!へそ出しが見れるよ!」

 愁がいえーっと両手を上げた。ヴァイオレットがはてな、と首を傾げる。
 後ろから繭がヴァイオレットの手を掴んで、愁の手にぱちんと合わせた。

「弘樹、開けるわよー」

 香夜が試着室のカーテンを掴む。
 カーテンを開けると、弘樹がオレンジのへそ出しの服を着て体育すわりで両足の間に顔を埋めていた。
愁に腕をひっぱられると顔だけ上げて、さっとまたもとの体勢に戻った。

「ほらほら、立ち上がってよ弘樹♪よく見せて♪」

 香夜が弘樹を羽交い絞めにして、両腕を広げる格好で前に連れ出した。
 弘樹は力なくされるがままになっている。

「びみょーに腹筋が割れてるね♪」

「でも肌が白いから似合ってるぞ」

「適当なこと言うな繭!」

「よし、それを買ってやろう」

「ぎゃー余計なことすんなー!!」

 香夜とヴァイオレットが大笑いし始めた。
 弘樹がその格好のまま繭の腕にしがみついたものの、繭はカードであっさり支払いをすませてしまったのだった。

「さー出ようか」と愁。

「弘樹、そのまま外に出なよ」と香夜。

「お客様」

 にこにこと先ほどネクタイを持ってきた店員が言う。

「同色のパンツはいかがでしょうか?こちらショートパンツとなっていて大変可愛らしく……」

「それ下さい」と繭。

「ぎゃーーーーーーーー!!!」

 弘樹の絶叫が響き渡った。





「よかったじゃん弘樹」

「尻が小さいから似合うわよ」

 香夜がにやにやした。

 さすがにその場でのショートパンツの試着はまぬがれたものの、
 その問題の服が入った袋は弘樹の手に重く、重くのしかかっている。

「さて……次はどの店に入るか……」

「今度こそヴァイオりんの服を選ばなきゃねー」

「ねえねえ、見て、あれ」

 香夜が一軒の店を指差した。信号を渡って、ショーウインドウの前にぞろぞろ歩いていく。

「へえ、こんなの出来てたんだ」

 ユニセックス(男女どちらでも着れる服)の服ばかりを取り扱った店で、
 香夜が指差しているのは、ディスプレイしてある服だ。

 目が冴えるような青色の、ノースリーブにタートルネックのぴったりした服。
 上腕部から指までを覆い隠す袖、緩い太目の光沢のある黒いベルトに、膝丈の細身の黒いパンツ。

「あれ、すっごく似合いそうじゃない?」

「香夜の趣味がすごく入ってるね」

 香夜が愁の尻を蹴った。

「ビジュアル系だな」

 弘樹がぼそりと言った。

「あはは。そんなかんじだよね」

「あの……でも……」

 ヴァイオレットがもじもじした。香夜が何、とヴァイオレットに近づく。
 ヴァイオレットは問題の服の足元に置いてあるプレートを指差した。

「ものすごく高いんですけど……」

 なんと、プレートには0が大量に並んでいた。
 しかし、繭は無言で、しかもプレートを見ずに店に入っていった。

「ちょ……入っちゃいましたよ!?」

「いいんだよ、繭の実家すごい大金持ちだから、甘えておけば」

 愁がヴァイオレットの肩を叩いた。

「え、えええ!?」

「一番年上だしね」

 香夜が言うと同時に、繭が紙袋を持った店員から袋を受け取って戻ってきた。

「Mでいいな」

「だよねー、ヴァイオりんすごくMっぽいもん」

「色んな含みがあるな」と弘樹

「ちょ……ちょっと待ってください。僕そんな……」

 繭が無言でヴァイオレットの手に紙袋を押し付ける。そのまますたすたと歩き出した。

「まあ、繭ポンはクールだから」

 と愁。

「どうせなら店で着替えたらよかったじゃない。それ、あんまり似合ってないわ」

 香夜がヴァイオレットが借りているTシャツを指差した。

「あ、繭足疲れたんだ。喫茶店に入っていくよ」

「じゃあ、喫茶店のトイレで着替えたらいいじゃねえか」

 へそ出しじゃねえけど。

 弘樹が苦々しげに呟いた。

「俺のと交換するか、ヴァイオ」

「もー行くよ弘樹!?」

 というわけで、五人は喫茶店に入った。コーヒーを五人分注文すると、
 ヴァイオレットはばっと紙袋を繭に突き出した。

「すいません…………僕、そんなつもりじゃなくて……これ、お返しします!」

「そんなもの俺、もらっても着れないんだけど」

 愁が大笑いした。

「あ、じゃあ僕返してきます……」

 とヴァイオレットは立ち上がりかけた。まあまあ、と香夜がヴァイオレットをなだめる。

「それにしても、金持ってたのか?ヴァイオ」

 弘樹がぽつりと言った。

 ヴァイオレットがぽとりと紙袋を落とした。

「奢らせる気だったんだ……!!」

「怖い子……!」

「確信犯だな」

 弘樹と香夜と愁が頭を寄せてぼそぼそと囁きあった。ヴァイオレットが泣きそうな顔をした。

「でも俺たちもよく繭に奢ってもらってるしな」

「さすがにこんなに高いものは奢ってももらわないけどね」

 ぐさっと香夜の一言にヴァイオレットがよろけた。

「おい、香夜!」

 弘樹が鋭い口調でたしなめる。ヴァイオレットが細い顎を震わせて、ばっと店の外に飛び出していった。

「ああっ、もう香夜のせいだよ!」

 愁がぷりぷりした。弘樹が追いかけようとして、無駄だ、と繭に止められた。

「今頃あの羽か魔法でどこかに行ってしまっているだろう」

 調度、コーヒーが運ばれてきた。コーヒーは、四つしかなかった。

 それは、ヴァイオレットが四人とは異質な存在であることを、明確に告げていた。




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