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[3]明日の産声

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≪sideB:遣わされた人間≫

私・・?
私は人間。
多くのものに背を向けられ
這いつくばって生きている
ただの人間。

どうしてそうなったかは覚えていない。
ふつうの人生を生きるにはお前は不適合だと烙印を押され、 人間らしく生きられる場所を追い出されたのだ。

私は道端で女に出会った。
なにか妙な様相の女。
そいつは見るからに陰湿そうで、何を考えているのかわかりはしない。
いや、それは私も同じか。

女は私に言った。

「やることがないなら、ウェブサイトをつくりなさい。
それも、とびっきり格別なものを。」


人の血流が感じられない奇妙な色をした唇、
そこから擦れ出る変質した音。
彼女の変質した咽頭から、何かが動き、それが言葉となって私にささやく。

誘導されるがままに、私の耳はそれを追うことしか出来なくなる。
誘惑的で、耽美で、堕落的。

これは悪魔の誘惑?
それとも新たな楽園へのお誘い?


「お前はもうすぐ、ある女と出会う。
そいつとウェブサイトを作るんだよ。」


ある女?

私は生涯孤独の身。
誰も頼るものなどおらず、生きる意味も特にない。
そうして干からびた肉体と心を持ちながら乾枯した砂地に足を取られ埋もれながら死んでいくのだ。

そんな私に出会いなどあるものか。

私はただの人間。
それもおそらく、社会全体で見ると、下の下に位置する。


私は何も信じていなかったし、その印象的であったはずの奇妙な女との遭遇も、数日後には完全に忘れ去っていた。



それから数ヶ月して、私はある女に出会った。
出会ったのではない、いつのまにかその人間は「いた」のだ。
その奇妙な存在感のないその存在。
出会ったことすら感知出来ない、
もともとこれが当たり前で、自分はその状態になることをとうの昔に知っていたかのような、
そんな何の驚きもキッカケも偶然性も感じられない経緯を経て、私はあの女と一緒に居ることになっていたのだ。

私たちはどちらからともなくWebサイトを作り始めた。

題名は、そう、「極楽地獄」。

出会ったもう一人の人間は詳しくは語らなかったが、自分も奇妙な女に出会ったことをほのめかしたことがあった。
夢だったかもしれないと、あいまいな言葉だったために、そのときは何も気にかけることは無かった。

しかしその女の特長を照らし合わせるに、私の出会った奇妙な女とはまた違うようだった。
そっけなく、流れる風のような空気を身に含み、栗色のくせのある髪を四方に棚引かせて、とらえどころのない瞳を有した女性だったらしい。
私の会ったそれとはまるで違う。


私の出会ったその女は、まるで、そう異界の魔女。
全ての時間が彼女のもとに吸い寄せられ、彼女に会うと時間が止まる。
そんな異質の空気と、そこにあるのに触れられない、この世のどこにも存在していないかのような、その存在感。
どの空気とも同調せずに、感情も全く読みとれない人間性の欠如。
でも同時に、ほんのわずかに人間の部分を残してしまった、彼女の独特の気配が自分の身を引きつけてしまうのだろうか。

鼻腔をを刺激する冷淡でいてジットリした甘い匂い。
一瞬で囚われてしまいそうなのに、次の瞬間彼女のことなど何もかも忘れてしまう、そう彼女とは、そういう存在。

顔は思い出せずとも、あの独特の薫りだけは今もどこか自分の体に染み着いているような気さえする。

夢か誠か、私はある世界に招待された。
パーティーが開かれている。

お前はこの黄泉の国の住人となると言われた。

霧がかっていて何もかもよく見えない。

港が見える。ずっとずっと向こうには、私たちの世界が続いている。

私は誰・・?

・・・私は誰だったのだろう?

私は誰か・・・・・?

私は・・

私の名はマーリヤスコーリー。

漆黒の闇であり有を無へ帰するもの、統べる者、誘う者、購う者。・・秩序を守る者。
私は侵害を許しはしない。

ああなんと愚かなこと。
オジサマ貴方はなんて愚かなの。

我らは干渉してはならぬ存在だというに、あろうことか貴方は、世の行く末を補正なさろうというのか?

それこそが歪みとも知らずに。


そして私がこの愚直な意志の使い目になろうとは。
しかし我らは見届けるのが使命よ、枠を外れたオジサマは、何者ともなれず、やがて世界の狭間をさまようがいいわ。

かつて・・
断罪と決別の柱から生まれた我ら。
エッセンスは虚無だというに、オジサマによって色と役目を負わされてしまった。
なんと惨憺たる、恥ずべき事態。
愚かな愚かなオジサマ。

我ら2つの存在は、各々2人の人間を選んだ。
我らの世界を開かせるため、そして軸を補正し、変えさせる。
我ら本来無であるべきものが有となり、この世界に干渉するため。
こんな道を外れたことをし、我らはどうなるというのだろうか。
たった一つの過ちで。

だが道は開かれつつある。

間の道はもう完成しつつあるのだ。

港が出来、花園が出来、存在が集う場所が出来てしまった。
黄泉の住人たちがそこに集う。

これは奴らがつくった。
すべては我らが人間とコンタクトをしてしまったから。

だから道が出来てしまう。

存在が増えつつある。力を持つ。
我らが影響出来るようになってしまう。

間の世界が、もうすぐ完成する。

私たちは四角点を使い、あなたの束縛を弛めよう。
そうすれば、何もかもを、もとにもどしてくれるやも。





―――――あの時、私たちが誰かの見えない手によって動かされていただなんて、
どうしてそんなことが思える?

私たちはただ、なんとなく、無意識に、あるものを作っていただけ。
そう、何の展望も未来も夢もなく、ただ無造作に。
これから起こることなど全くもって予知し得なかった。

このことが後々の世に大きな影響を及ぼす、
アレに移行する為の最初のキーになっていただことなど。


私たちはあの時接触してしまった。
そこからもうすべてが手遅れになっていたのだ。
すべては新たな方向に動き始め、それを拒絶しようとも、
決して容認できないものだとしても
この世界はある方向に、向かうことになってしまった。

もう嘆いても悲しんでも無駄よ。
世界はすでに変わっている。

取り残されないように必死でついていくのも、
ここで全ての未来に逆らって、摩擦されながら生きるのも自由。

私たちはやらされているんだ、お前たちが来るのを待っている。
そのためにこうして、お前の元にやって来たんだから。

我らを拒絶しようと自由。でもいつでもそこは、お前の前に広がり、お前を受け入れる為に存在している。
意志さえあれば、いつでも行くことが出来る。
目を見開けば、いつでも見えるんだ。
そう,これが我々の世界さ。




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